解説 ホーム > 解説 > ニュースでよく聞くあのはなし > 【動画でザックリ解説】原子力イノベーションって? ニュースでよく聞くあのはなし ニュースでよく聞くあのはなし「原子力イノベーション」って? 「そもそも」が口ぐせ★ニュースに詳しい♪「そもそも姉」がザックリ解説! 掲載日2022.1.19 WEBでしっかり解説!「原子力イノベーション」って? 原子力発電は、地球温暖化防止の面で世界的に注目されつつあります。それは、大量の電力をCO2排出なしで発電できる唯一の方法だからです。しかし、原子力の利用はそれだけではありません。原子力にしかできないこともたくさんあるのです。これから、原子力はどのように発展、進歩していくのでしょうか? (1)火星で原子力が活躍? 火星探査機「パーサヴィアランス」をご存じですか? 2021年2月に火星に着陸して生命の痕跡がないか調査を行っています。火星は数十億年前には居住可能であった可能性があるとされているのです。それが今では凍り付いた惑星に変化している。なぜでしょうか? こんなワクワクする謎解きのため、火星探査機「パーサヴィアランス」は調査を行っています。 ©NASA/JPL-Caltech ところで、火星で動き回り、岩石を採取するためにはエネルギーが必要ですよね。火星は地球より太陽から離れているので、太陽光発電では十分なエネルギーが得られません。そのため、パーサヴィアランスには10Lのビール樽ほどに小型化された原子力電池が搭載されているのです。 原子力電池は、プルトニウム238の崩壊*によって発生する熱を電気に変換することで数十年間電力を供給することができます。ちなみに1970年代後半に打ち上げられた探査機「ボイジャー」の電池は今でも通信できています。(2021年12月現在) * 崩壊(壊変):不安定な原子核が放射線を出して別の原子核に変わる現象 (2)海から電力を供給する 原子力が活躍できるフィールドは海にもあります。例えば、ロシアのように国土が広い国では、国中に発電所をつくり、国中に送電線を張り巡らすことは物理的にも費用的にも大変ですね。シベリアなど人が住んでいないような極寒の地に、例えば資源開発のために発電所をつくり燃料を供給し続けることなどできないでしょう。そこで、燃料供給せず(3年から5年間燃料を供給する必要がありません)長期間電力を供給し続けることができるメリットと砕氷船の技術を生かして、ロシアではシベリアや北極海での水上原子力発電所を利用した資源開発を推進しています。 ロシアで開発されている水上原子力発電所「アカデミック・ロモノソフ」 ©ROASATOM 小型モジュール炉(後半で解説)を搭載した「アカデミック・ロモノソフ」は、2019年12月にロシア最北端の街、ペヴェクで送電を開始し、熱も供給することができます。このように、人の立ち入ることが困難な僻地、送電線の無い地域、離島への電力供給をはじめ、災害時に海から電力を供給することができるなど、水上原子力発電所には多様な用途が想定されています。 (3)小型の原子力発電所 さて、宇宙・海での原子力の活躍を見てきました。ところで、陸ではもっと活躍する場はないのでしょうか? 宇宙でも、海でも新たな原子力の用途は「小型」がキーワードでした。そして、これから注目される陸での新たな原子力利用も「小型」がキーワードと言えるでしょう。 これまで大規模な発電方法の代名詞とされてきた「原子力発電」。実は、小型にすることでもっといろいろな活躍の場が見えてくるのです。また、「安全な原子力発電所」を目指すことも小型の原子力発電所ならではの得意技なのです。 小型の原子力発電所は、今のところまだ事業化したものはありません。しかし、各国の企業、特にアメリカのスタートアップ企業がこぞって小型の原子力発電所の開発に乗り出しているのです。例えば、原子炉をモジュール化*して、あたかも電池のように、必要な時に、必要な分だけ、そのモジュールを並べるなどのアイデアもあります。万が一の事故でも、一つ一つのモジュールが独立していれば大規模な放射性物質の放出につながらないという利点もあります。また、小型であれば大きな河川や海のように排熱を捨てる「水」が無くても空気冷却で運転することもできるので、これまでは考えられなかった山の中、砂漠の中でも設置することができるようになるかも知れません。 * モジュール化:あらかじめ準備したユニット(部品の集合体)などを組み合わせてつくる手段 (4)これからの原子力利用 原子力の特徴を活かし、「宇宙」「海」そして「離島」「僻地」など、これまでエネルギー供給が困難だった場所にも安定で大きな電力や熱を供給することができる可能性があります。そして、そのための原子力のイノベーション、開発努力が続けられています。原子力は地球温暖化対策として経済的な方法の一つです。世界にはいまだに電気を使うことのできない人々が約8億人いると言われます。持続可能な社会を構築するために、まだまだ原子力の役割はあるのです。 【監修】 株式会社 ユニバーサルエネルギー研究所 代表取締役社長 金田 武司 氏 工学博士。東京工業大学大学院エネルギー科学専攻博士課程修了。(株)三菱総合研究所勤務を経て、2004年(株)ユニバーサルエネルギー研究所を設立。2018年8月に新著『東京大停電』を出版。 この記事に登録されたタグ そもそも姉さんSMR小型原子炉次世代原子炉原子力イノベーション このページをシェアする 関連記事 【動画でザックリ解説】カーボンニュートラルって?【動画でザックリ解説】処理水って?【動画でザックリ解説】日本のエネルギーの特殊な事情【動画でザックリ解説】世界のエネルギー事情~脱ロシアと脱炭素に向けた各国の課題~ Copyright(C) Japan Atomic Energy Relations Organization All Rights Reserved.
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原子力発電は、地球温暖化防止の面で世界的に注目されつつあります。それは、大量の電力をCO2排出なしで発電できる唯一の方法だからです。しかし、原子力の利用はそれだけではありません。原子力にしかできないこともたくさんあるのです。これから、原子力はどのように発展、進歩していくのでしょうか?
(1)火星で原子力が活躍?
火星探査機「パーサヴィアランス」をご存じですか? 2021年2月に火星に着陸して生命の痕跡がないか調査を行っています。火星は数十億年前には居住可能であった可能性があるとされているのです。それが今では凍り付いた惑星に変化している。なぜでしょうか? こんなワクワクする謎解きのため、火星探査機「パーサヴィアランス」は調査を行っています。
©NASA/JPL-Caltech
ところで、火星で動き回り、岩石を採取するためにはエネルギーが必要ですよね。火星は地球より太陽から離れているので、太陽光発電では十分なエネルギーが得られません。そのため、パーサヴィアランスには10Lのビール樽ほどに小型化された原子力電池が搭載されているのです。
原子力電池は、プルトニウム238の崩壊*によって発生する熱を電気に変換することで数十年間電力を供給することができます。ちなみに1970年代後半に打ち上げられた探査機「ボイジャー」の電池は今でも通信できています。(2021年12月現在)
* 崩壊(壊変):不安定な原子核が放射線を出して別の原子核に変わる現象
(2)海から電力を供給する
原子力が活躍できるフィールドは海にもあります。例えば、ロシアのように国土が広い国では、国中に発電所をつくり、国中に送電線を張り巡らすことは物理的にも費用的にも大変ですね。シベリアなど人が住んでいないような極寒の地に、例えば資源開発のために発電所をつくり燃料を供給し続けることなどできないでしょう。そこで、燃料供給せず(3年から5年間燃料を供給する必要がありません)長期間電力を供給し続けることができるメリットと砕氷船の技術を生かして、ロシアではシベリアや北極海での水上原子力発電所を利用した資源開発を推進しています。
ロシアで開発されている水上原子力発電所「アカデミック・ロモノソフ」 ©ROASATOM
小型モジュール炉(後半で解説)を搭載した「アカデミック・ロモノソフ」は、2019年12月にロシア最北端の街、ペヴェクで送電を開始し、熱も供給することができます。このように、人の立ち入ることが困難な僻地、送電線の無い地域、離島への電力供給をはじめ、災害時に海から電力を供給することができるなど、水上原子力発電所には多様な用途が想定されています。
(3)小型の原子力発電所
さて、宇宙・海での原子力の活躍を見てきました。ところで、陸ではもっと活躍する場はないのでしょうか? 宇宙でも、海でも新たな原子力の用途は「小型」がキーワードでした。そして、これから注目される陸での新たな原子力利用も「小型」がキーワードと言えるでしょう。
これまで大規模な発電方法の代名詞とされてきた「原子力発電」。実は、小型にすることでもっといろいろな活躍の場が見えてくるのです。また、「安全な原子力発電所」を目指すことも小型の原子力発電所ならではの得意技なのです。
小型の原子力発電所は、今のところまだ事業化したものはありません。しかし、各国の企業、特にアメリカのスタートアップ企業がこぞって小型の原子力発電所の開発に乗り出しているのです。例えば、原子炉をモジュール化*して、あたかも電池のように、必要な時に、必要な分だけ、そのモジュールを並べるなどのアイデアもあります。万が一の事故でも、一つ一つのモジュールが独立していれば大規模な放射性物質の放出につながらないという利点もあります。また、小型であれば大きな河川や海のように排熱を捨てる「水」が無くても空気冷却で運転することもできるので、これまでは考えられなかった山の中、砂漠の中でも設置することができるようになるかも知れません。
* モジュール化:あらかじめ準備したユニット(部品の集合体)などを組み合わせてつくる手段
(4)これからの原子力利用
原子力の特徴を活かし、「宇宙」「海」そして「離島」「僻地」など、これまでエネルギー供給が困難だった場所にも安定で大きな電力や熱を供給することができる可能性があります。そして、そのための原子力のイノベーション、開発努力が続けられています。原子力は地球温暖化対策として経済的な方法の一つです。世界にはいまだに電気を使うことのできない人々が約8億人いると言われます。持続可能な社会を構築するために、まだまだ原子力の役割はあるのです。
【監修】 株式会社 ユニバーサルエネルギー研究所 代表取締役社長 金田 武司 氏
工学博士。東京工業大学大学院エネルギー科学専攻博士課程修了。(株)三菱総合研究所勤務を経て、2004年(株)ユニバーサルエネルギー研究所を設立。2018年8月に新著『東京大停電』を出版。
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