解説 ホーム > 解説 > ニュースでよく聞くあのはなし > 【動画でザックリ解説】日本のエネルギーの特殊な事情 ニュースでよく聞くあのはなし ニュースでよく聞くあのはなし 知ってほしい!日本のエネルギーの特殊な事情 「そもそも」が口ぐせ★ニュースに詳しい♪「そもそも姉」がザックリ解説! 掲載日2022.5.25 WEBでしっかり解説!日本の特殊なエネルギー事情 日本固有のエネルギー事情。日頃あまり考える機会は無いものと思います。しかし、深く考えてみるといろいろな課題が見えてきます。それは、発電の8割弱を支えている化石燃料の調達、これから推進しようとする再生可能エネルギーの普及、そして、安定供給が可能な電源としての原子力の役割。諸外国との電力の融通ができないことから、日本のエネルギー事情は諸外国と比べて比較にならないほど特殊な環境にあり、地球温暖化を防止するCO2対策も含めて、日本は解決しなければならない多くの課題を抱えているのです。さて、ここではそのための取り組みについて少し具体的に見てみましょう。 (1)燃料の調達先を増やすこと 現在(2022年4月)、日本では原子力発電所が10基しか動いていません。そのため電力の概ね76%(2019年度)は、LNG、石炭、石油など化石燃料により発電されています。しかし、これら化石燃料は日本にはほとんどなく、ほぼ全て海外からの輸入に頼っています。 日本の電源構成(2019年度) 出典:総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会『次期基本計画素案が示す2030年度の電源構成見通し』より作成 ちなみに、原油は99.7%、LNG(天然ガス)は97.7%、そして石炭は99.6%(各々2020年時点)が海外からの輸入です。輸入に頼るということは、一つの国、一つの地域からの輸入に集中することもリスクになりますので、多様な地域、国からの輸入を心がけることでリスクを分散しなければなりません。 日本の化石燃料輸入先(2020年) 出典:経済産業省『日本のエネルギー 2021年度版|エネルギーの今を知る10の質問』 この図で示されているように、原油はサウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェート、カタール、などから、LNG(天然ガス)はオーストラリア、マレーシア、カタール、ロシアなどから、そして、石炭はオーストラリア、インドネシア、ロシアなどから輸入することにより、特定の国の国情が大きく変化した場合でも、日本のエネルギー供給、発電への影響が少なくて済むような工夫をしています。 そして、日本には化石燃料がほとんど無いことから、オイルショックのあと、国産エネルギーと言える原子力発電や再生可能エネルギーの開発を積極的に進め、エネルギー自給率を向上させる努力をしてきた経緯があります。 (2)燃料の長期契約の重要性 2021年秋から発電用の天然ガスの価格高騰により、アジア、ヨーロッパ、そして日本の電力価格が上昇し、大きな話題となりました。例えば、天然ガスは2021年10月には2020年の同時期に比べて、スポット価格(*)が10倍になったとの報道もありました。それにより、各国の電気代の急激な値上がりも報道されています。 さて、日本の電力の37%を供給する天然ガスですが、日本ではこのように変動するスポット価格での購入をできる限り押さえ、15年~20年程度の長期での購入契約を行っています。長期購入契約を行うことで、長い期間で安定的な調達が可能となり、欧米のような急激な電力価格の上昇が抑えられています。このように、資源の無い日本で安定的な電力供給を行うためには、燃料調達の面からも工夫が重要です。 ※スポット価格:一度の取引ごとに決められた売買価格。その時期の需給バランスで決まる価格。 (3)安定供給のこれから 日本は、諸外国と電線や燃料となるガスの融通インフラがつながっていないことをお話ししました。そして、これからは化石燃料だけに頼らず、CO2排出の少ない発電方法にシフトしていくことも求められています。 そこで、再生可能エネルギーがCO2排出削減のために国内外で積極的に導入されているのですが、一方で再生可能エネルギーの多くは発電が不安定という側面もあります。例えば、国内で最も普及が進んでいる太陽光発電は、夜間や天候の悪いときには発電することができず、積雪が多い地域でも十分な機能が発揮できません。また、風力発電は風が吹かなければ発電することができず、台風など強風による被害なども発生しやすい発電方法です。また、それらの発電計画を人間が制御・決定することもできず、自然に任せるしかありません。 また、再生可能エネルギーだけで賄えない時間帯は、どうしても他の発電方法で賄わなければなりません。その場合、天然ガス火力発電など、出力を短時間で制御できる発電システムが必要となります。しかし、これら大型の発電設備は、安定的に運転することで低コストな電気を作り出すことができますが、再生可能エネルギーの発電しない時間帯だけ運転するなど、不安定な運転をすると、逆にコストが上昇してしまいます。 電力の安定的な供給のためには、安価で大量の電力を安定して供給できる原子力発電、石炭火力発電などの活用も重要です。 我々の日常生活に無くてはならない電力ですが、日本では、これらの多様な発電方法を上手く組み合わせることで、互いの発電方法の弱点を補いつつ、安定した安価な電力供給がはじめて実現します。 【監修】 株式会社 ユニバーサルエネルギー研究所 代表取締役社長 金田 武司 氏 工学博士。東京工業大学大学院エネルギー科学専攻博士課程修了。(株)三菱総合研究所勤務を経て、2004年(株)ユニバーサルエネルギー研究所を設立。2018年8月に新著『東京大停電』を出版。 この記事に登録されたタグ 日本のエネルギーエネルギーセキュリティそもそも姉さん このページをシェアする 関連記事 【動画でザックリ解説】原子力イノベーションって?【動画でザックリ解説】カーボンニュートラルって?【動画でザックリ解説】処理水って?【動画でザックリ解説】世界のエネルギー事情~脱ロシアと脱炭素に向けた各国の課題~ Copyright(C) Japan Atomic Energy Relations Organization All Rights Reserved.
解説
ニュースでよく聞くあのはなし
ニュースでよく聞くあのはなし 知ってほしい!日本のエネルギーの特殊な事情
WEBでしっかり解説!日本の特殊なエネルギー事情
日本固有のエネルギー事情。日頃あまり考える機会は無いものと思います。しかし、深く考えてみるといろいろな課題が見えてきます。それは、発電の8割弱を支えている化石燃料の調達、これから推進しようとする再生可能エネルギーの普及、そして、安定供給が可能な電源としての原子力の役割。諸外国との電力の融通ができないことから、日本のエネルギー事情は諸外国と比べて比較にならないほど特殊な環境にあり、地球温暖化を防止するCO2対策も含めて、日本は解決しなければならない多くの課題を抱えているのです。さて、ここではそのための取り組みについて少し具体的に見てみましょう。
(1)燃料の調達先を増やすこと
現在(2022年4月)、日本では原子力発電所が10基しか動いていません。そのため電力の概ね76%(2019年度)は、LNG、石炭、石油など化石燃料により発電されています。しかし、これら化石燃料は日本にはほとんどなく、ほぼ全て海外からの輸入に頼っています。
出典:総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会『次期基本計画素案が示す2030年度の電源構成見通し』より作成
ちなみに、原油は99.7%、LNG(天然ガス)は97.7%、そして石炭は99.6%(各々2020年時点)が海外からの輸入です。輸入に頼るということは、一つの国、一つの地域からの輸入に集中することもリスクになりますので、多様な地域、国からの輸入を心がけることでリスクを分散しなければなりません。
出典:経済産業省『日本のエネルギー 2021年度版|エネルギーの今を知る10の質問』
この図で示されているように、原油はサウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェート、カタール、などから、LNG(天然ガス)はオーストラリア、マレーシア、カタール、ロシアなどから、そして、石炭はオーストラリア、インドネシア、ロシアなどから輸入することにより、特定の国の国情が大きく変化した場合でも、日本のエネルギー供給、発電への影響が少なくて済むような工夫をしています。
そして、日本には化石燃料がほとんど無いことから、オイルショックのあと、国産エネルギーと言える原子力発電や再生可能エネルギーの開発を積極的に進め、エネルギー自給率を向上させる努力をしてきた経緯があります。
(2)燃料の長期契約の重要性
2021年秋から発電用の天然ガスの価格高騰により、アジア、ヨーロッパ、そして日本の電力価格が上昇し、大きな話題となりました。例えば、天然ガスは2021年10月には2020年の同時期に比べて、スポット価格(*)が10倍になったとの報道もありました。それにより、各国の電気代の急激な値上がりも報道されています。
さて、日本の電力の37%を供給する天然ガスですが、日本ではこのように変動するスポット価格での購入をできる限り押さえ、15年~20年程度の長期での購入契約を行っています。長期購入契約を行うことで、長い期間で安定的な調達が可能となり、欧米のような急激な電力価格の上昇が抑えられています。このように、資源の無い日本で安定的な電力供給を行うためには、燃料調達の面からも工夫が重要です。
※スポット価格:一度の取引ごとに決められた売買価格。その時期の需給バランスで決まる価格。
(3)安定供給のこれから
日本は、諸外国と電線や燃料となるガスの融通インフラがつながっていないことをお話ししました。そして、これからは化石燃料だけに頼らず、CO2排出の少ない発電方法にシフトしていくことも求められています。
そこで、再生可能エネルギーがCO2排出削減のために国内外で積極的に導入されているのですが、一方で再生可能エネルギーの多くは発電が不安定という側面もあります。例えば、国内で最も普及が進んでいる太陽光発電は、夜間や天候の悪いときには発電することができず、積雪が多い地域でも十分な機能が発揮できません。また、風力発電は風が吹かなければ発電することができず、台風など強風による被害なども発生しやすい発電方法です。また、それらの発電計画を人間が制御・決定することもできず、自然に任せるしかありません。
また、再生可能エネルギーだけで賄えない時間帯は、どうしても他の発電方法で賄わなければなりません。その場合、天然ガス火力発電など、出力を短時間で制御できる発電システムが必要となります。しかし、これら大型の発電設備は、安定的に運転することで低コストな電気を作り出すことができますが、再生可能エネルギーの発電しない時間帯だけ運転するなど、不安定な運転をすると、逆にコストが上昇してしまいます。 電力の安定的な供給のためには、安価で大量の電力を安定して供給できる原子力発電、石炭火力発電などの活用も重要です。
我々の日常生活に無くてはならない電力ですが、日本では、これらの多様な発電方法を上手く組み合わせることで、互いの発電方法の弱点を補いつつ、安定した安価な電力供給がはじめて実現します。
【監修】 株式会社 ユニバーサルエネルギー研究所 代表取締役社長 金田 武司 氏
工学博士。東京工業大学大学院エネルギー科学専攻博士課程修了。(株)三菱総合研究所勤務を経て、2004年(株)ユニバーサルエネルギー研究所を設立。2018年8月に新著『東京大停電』を出版。
この記事に登録されたタグ
このページをシェアする
関連記事
【動画でザックリ解説】原子力イノベーションって?
【動画でザックリ解説】カーボンニュートラルって?
【動画でザックリ解説】処理水って?
【動画でザックリ解説】世界のエネルギー事情~脱ロシアと脱炭素に向けた各国の課題~