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ニュースでよく聞くあのはなし 世界のエネルギー事情~脱ロシアと脱炭素に向けた各国の課題~

「そもそも」が口ぐせ★ニュースに詳しい♪「そもそも姉」がザックリ解説!
 
掲載日2022.9.5
 
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WEBでしっかり解説!世界のエネルギー事情~脱ロシアと脱炭素に向けた各国の課題~

2022.6.4 時点の情報
 

2022年2月24日、ロシアは隣国ウクライナに侵攻し、戦争状態となっています。一方的なロシアの侵攻に対し、国際社会はロシアへの経済制裁、ウクライナへの軍事支援など多面的な動きをみせています。ウクライナ南東部での悲惨な戦闘が激化するなか、5月9日にウクライナのゼレンスキー大統領が出席のもと、G7(先進7ヶ国)首脳テレビ会議が開催されました。その中で、G7として石油をはじめとするロシアのエネルギー資源への依存を下げることを緊急課題として採択し、またCO2排出削減対策としてクリーンエネルギーへの移行を加速するなどの目標が提示されました。

 

G7のテレビ会議では、欧米、そして日本を含む先進国のそれぞれの事情が大きく異なっていることも露呈し、世界が一枚岩となり脱ロシア、脱炭素の実現を目指していくことの難しさが浮き彫りになりました。

     

(1)脱ロシアはどうして困難なのでしょうか

ロシアは、天然ガスの産出が世界最大です。ヨーロッパ各国は再生可能エネルギーへの転換を進めつつも天然ガスの4割をロシアに依存しています。ロシアに対する経済制裁を行いながら脱ロシアと叫んでいても、現実はロシアの天然ガスに依存しているのが現状です。主に発電で使われている天然ガスは、ロシアからパイプラインでヨーロッパ各国に輸送されていますが、天然ガスの供給が止まれば、発電するための燃料が足りなくなり電気が供給できなくなります。日本もロシア産の天然ガスに9%ほど依存しているため、ロシアからの供給途絶は日本経済においても死活問題です。

 

特にヨーロッパは脱炭素に向けた再生可能エネルギーへの転換を進めており、その一過程として、CO2排出の少ない天然ガスの利用は必須です。例えば風が弱まり風力発電が停止したときに、その電力を補う必要があります。その補う電力こそ、ロシア産の安価な天然ガスということになります。実際、昨年(2021年)夏頃からヨーロッパ各地で風が弱まり、発電量が減少したことにより天然ガスの需要が急速に高まり、ガス価格、電力価格が急騰する事態が発生しました。

 

このように天然ガスの利用は、ヨーロッパ各国における再生可能エネルギーへの転換において、変動する電力需要を補完するために必須な燃料だったわけです。ロシアからの輸入を急に止めるわけにはいかないのです。

 
ロシアへの依存度(輸入量におけるロシアの割合)2020年
 
出典:World Enegy Balance2020(自給率)、
BP統計、EIA、Oil Information、Coal Information(依存度・日本以外)、財務省貿易統計2021年速報値(依存度・日本)
   

日本はどうでしょう。日本には海外とつながる天然ガスのパイプラインがありません。ロシアなど海外から天然ガスを輸入するためにはタンカーだけが頼りとなります。

 

さて、ロシアの天然ガスに9%ほど依存している日本にとってはヨーロッパ各国よりロシアへの依存度が低い分、脱ロシアが容易に感じるかもしれません。しかし、そうではありません。日本は海外とパイプラインがつながっていないだけでなく、海外から送電線で電気を輸入することができないことが日本の脱ロシアをさらに難しくしています。仮に海外から電気の調達することができれば、ロシア産のガスが輸入できなくても海外から電気そのものを購入することができ、ダメージを軽減することができます。しかし、日本はそれもできないのです。

 

(2)国によって異なるエネルギー事情

G7各国の立場とエネルギー事情を見てみましょう。

 

ドイツ

EUの経済を牽引してきたドイツの動きに注目が集まっています。これまで天然ガスの43%をロシアに依存してきた経緯や、日本と同様、歴史的に石炭に大きく依存してきた産業構造があります。ドイツの一次エネルギーは石油、天然ガス、石炭のどれを取ってもロシアへの輸入依存度が一番高いのです。ロシアから安価に供給されていたこれらの輸入に自ら制限を掛けることで、電力不足と価格高騰を招いています。燃料分野での脱ロシアの実現にはどう考えても相当長い時間が必要と考えられます。しかし、このG7テレビ会議で議長国を務めたドイツは、天然ガスからの脱却も石炭からの脱却も「うまくいっている」と発言しています。なぜでしょう? 隣国のフランスには原子力発電があります。ドイツは自国の原子力発電を止めたとしてもフランスの原子力発電の助けに期待できるのです。しかし、自ら原子力発電を廃止したことを後悔しているようにも見えます。

 

フランス

フランスはドイツに比べれば「高見の見物」です。石油はロシアに頼っていないし、天然ガスや石炭は3割弱をロシアに頼っていますが、代替手段があります。それはなんでしょう? 自ら原子力技術を産業として守っています。発電においては原子力が天然ガスや石炭の代わりになり得るからです。早速フランスは原子力発電所の新設を発表しています。もっと電気を他国に売れると考えたのでしょう。また、電力が本当に不足すれば海外に売る分を国内に供給するという手段もあります。原子力発電だけではなく、フランスには水が豊富で、水力資源もあります。ちなみに、エネルギー資源の少ないフランスは、日本同様オイルショックの苦い経験から「自分の身は自分で守る」という方針をとり、原子力開発を進めてきた経緯があります。そんな意味で「初志貫徹の国」といえるかもしれません。

 

イタリア

実はドイツ、フランスと同様、イタリアもエネルギー資源に恵まれていない代表的な先進国です。脱ロシアのかけ声で本当に困ってしまった国の一つです。なにしろ、天然ガスも、石炭もロシアに一番依存していたわけで、さらに脱原子力を決めてしまっている手前、八方塞がりの状況です。イタリアの政府関係者は「もう再生可能エネルギーしかない」と考えているようです。そのため、再生可能エネルギーのインフラ整備がイタリアにとって最重要なテーマとなっています。ちなみに、ヨーロッパは送電線で各国が結ばれているので風が吹かなくても、日射がなくても、きっと誰かが助けてくれると考えているようです。本音は地球温暖化対策としても誰かの助けを待つのではなく、自前の電源・エネルギー源として原子力開発を進めたいところでしょう。

 

イギリス

第二次世界大戦後、イギリスは景気後退がありましたが、スコットランド沖の北海油田の発見によって貿易収支は赤字から回復しました。これ以降、イギリス経済は北海油田に頼ることになりましたが、最近ではこの油田も枯渇しつつあり、将来の見通しはあまり明るくありません。また、島国であることからガスの貯蔵はほとんどできず、既に底をついています。石油から天然ガスにエネルギーシフトしていますが、需要の半分しか自給できていないことも困っていることの一つです。また、昨年春から風力発電の稼働率が天候不順により伸び悩み、電力価格が高騰し、ガス・電力の小売り事業者が次々と経営破綻に追い込まれました。これに加え、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格急騰の影響を受け、イギリスではこれまでのエネルギー安全保障の考え方を根本から変える必要に迫られています。このような状況下において2022年4月、ついに政府は経済とエネルギーを守る観点から2030年までに最大8基の原子力発電所を新設する方針を発表しています。

 

カナダ

カナダは余裕です。ロシアのエネルギー資源に頼っていないどころか、エネルギー調達に全く困っていません。しかも、カナダの特筆すべきところは、燃料の要らない水力資源が豊富にあると共に、燃料供給がほとんど不要の原子力発電により経済がしっかり安定的に支えられています。ウラン資源も豊富にあるので、「ヨーロッパの危機的状況を理解しろ」と言われても難しいかもしれません。将来展望としては、水力と原子力という自前かつ脱炭素電源で自国のエネルギーで9割ほど賄うことを掲げています。うらやましい限りです。戦争に巻き込まれることも当分なさそうな国です。

 

アメリカ

アメリカはウクライナ侵攻によってさらに余裕の国へと変貌を遂げています。ロシア産の燃料から脱却するということは、中東はヨーロッパによる増産要求を断っているので、少なからずアメリカの天然ガスや石油に依存せざるを得ない訳です。さて、これまでG7テレビ会議ではLNG(液化天然ガス)の推進が強調されました。ロシアからの輸入はガスパイプラインを通じていましたが、それに変わる天然ガスの輸送方法はLNGしかありません。すなわちタンカーでの輸送です。G7の国が頼る相手は言わずもがなアメリカになります。アメリカには豊富な油田と天然ガス田があります。アメリカの原油採掘量はもはや世界一です。中東の国ではありません。アメリカのLNGを期待してヨーロッパは急速にLNGへのシフトを模索しています。アメリカにとって脱ロシアは巨大なマーケットの登場を意味しています。もちろん、高価な化石燃料を売るばかりではなく、自らの電源は安価でクリーンな原子力を進めるところも抜かりがありません。アメリカは次世代型の先進的な原子炉開発・実証事業に巨額な国家予算をつぎ込んでいます。バイデン大統領のG7テレビ会議での笑顔が余裕を物語っています。

 

日本

さて、G7のまだら模様の環境・エネルギー政策を尻目に一番困っているはずは日本です。何しろ、「資源なし」「エネルギーインフラなし」、そして原子力を積極的に推進するまでの政策が見えていません。東日本大震災までは60基の原子力発電所を稼働していましたが、24基が廃炉になり、10年以上経っても再稼働したのが僅か9基です。新設どころか再稼働すらできていない現状では、脱ロシアにしてもエネルギー急騰に対しても為す術がありません。他国と燃料にしても電力にしても融通することができない日本の弱みが今回も露呈しているのです。ロシアには依然として石油4%、天然ガス9%、そして石炭は11%を依存しており、これが即時に停止したら日本の経済は壊滅的な状況になります。

 

(3)改めてウクライナ情勢から日本の現状を考える

ウクライナ情勢はこのように世界各国に多大な影響を与え、今後のエネルギー政策を大きく変化させる可能性があります。特に、エネルギー資源の少ない日本にとって、仮にロシアなどのエネルギー資源国からの供給が止まることは、国の存続に関わる一大事であることに変わりありません。天然ガスで9%の依存はもはや致命的です。9%ほど途絶が継続したら大規模停電は免れません。

 

ここ数年、毎年のように日本では夏、冬に電力危機が訪れます。今後も危機的状況が予想されています。このなかでロシアの天然ガスに依存している9%を肩代わりする余力は残っていません。電力の供給は「1%」でも需要が供給を上回ったら全体が停電してしまいます。電気が薄暗くなるとか電車の速度が遅くなるとか、蛍光灯がチカチカするということではなく、一挙に大停電が広がることになります。

     

【監修】 株式会社 ユニバーサルエネルギー研究所 代表取締役社長 金田 武司 氏

工学博士。東京工業大学大学院エネルギー科学専攻博士課程修了。(株)三菱総合研究所勤務を経て、2004年(株)ユニバーサルエネルギー研究所を設立。2018年8月に新著『東京大停電』を出版。

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