コラム
むずかしいからきいてみた
たべものが電気に変身!? 香川県で行われているSDGsな「うどん発電」がスゴイ
#むずかしいからきいてみた
#エネルギー × “ 〇〇〇〇 ”
なるほど!と思う話題、エネルギーにまつわる雑学、ちょっと誰かにシェアしたくなるエネルギーの話をあらゆる方向からご紹介するこの企画。
第1回のテーマは「エネルギーדうどん”」です。
「うどん県」で知られる香川県では、作りすぎで余って捨てられてしまう“うどん”を活用して、発電や肥料づくりのプロジェクトが行われています。
今回はそんな取り組みを進める、うどんまるごと循環コンソーシアムの事務局長・久米 紳介さんに、うどんを使ったSDGsなプロジェクトについてお話をうかがいました。
そもそも、なんで香川はうどんが有名?
コシのある歯ごたえとツルっとしたのど越しがおいしい「讃岐うどん」。香川県発祥のご当地うどんですが、そもそも「なぜ香川県ではうどんが広く食べられている」のでしょうか。
香川県にうどんが伝わったのは、さかのぼること約1200年前。弘法大師・空海が中国から持ち帰ったといわれ、それ以降この地では小麦が作られるようになり、うどんが広まりました。
香川県は暖かく雨の少ない典型的な「瀬戸内式気候」です。この気候は小麦の栽培に適しており、さらに海では出汁づくりに使われる良質な「いりこ」が豊富に獲れました。また、古くから香川県では塩作りも盛んです。瀬戸内海に浮かぶ小豆島では出し汁に欠かせない醤油づくりが重要な産業になっています。
小麦、塩、出汁。うどんづくりに必要な食材がすべて揃うことから、香川県では讃岐うどんが地域のソウルフードへと成長したと考えられています。
讃岐うどんは安くておいしく、私もよく食べます。
個人的にはきつねうどんや釜揚げうどんが好きなので、香川を訪れたらぜひ食べてみてください。
-久米さん
香川県民は1人当たり年間200玉近くうどんを消費しているといわれ、久米さんによると「1年間300玉を食べる人」も少なくないそうです。
製麺所で廃棄うどんは1日なんと4トン!
人口1万人当たり「そば・うどん店」の事業所数は、香川県が全国トップ。さらに支出金額も全国1位となっており、香川県の人たちにとって、うどんはなくてはならない存在です。しかしその一方で、捨てられてしまううどんの量も決して少なくありません。
讃岐うどんは「早い・うまい・安い」が売りの食べ物です。讃岐うどんのお店では、うどんを先に茹でておき、注文が入ったらさっとお湯で温めてからお客さんに提供されます。そのとき、あまりに時間が経ってしまうと、讃岐うどんの特長である「コシ」がなくなってしまいます。一般的には、茹でてから20分ほどたってしまったものは仕方なく廃棄されてしまいます。さらに、うどんが作られる工場でも、切れ端などの廃棄うどんが大量に発生します。大きな製麺所では1日4トンもの食品が廃棄され、焼却処分されています。
うどんの7〜8割は水でできています。
通常、廃棄される食品は焼却処分されるので、いうなれば“水を燃やしている”ようなものです。
それではもったいないですよね。
-久米さん
「もったいないを何とかしたい!」から生まれたSDGsなプロジェクト
そんな背景から誕生したのが「うどんまるごと循環プロジェクト」です。香川県、地元企業、NPO団体など、いろいろな組織が参加してプロジェクトを進めています。
「うどんをまるごと循環させる!」がコンセプトのこのプロジェクトでは、なんと廃棄される食品から電気を作っています。発電の仕組みはこんな感じ。
まず、うどんをはじめとした食品廃棄物を大きなタンクに投入し、発酵させます。その過程でメタンガスが発生し、それを燃やして電気を作り出します。メタンガスを発生させるのは「メタン菌」という細菌です。このメタン菌は人の体温と同じ37℃前後を好むようで、沼や牛の胃、私たちのおなかにも住んでいます。
メタン菌は人に似ています。
うどんだけを食べていると栄養が偏ってガスが出にくくなってしまうそうなので、
うどん以外にも地域で出たいろいろな廃棄食品を活用して効率よくメタンガスを発生させています。
-久米さん
メタン菌は、食品の栄養分を分解してメタンガスを発生させるのですが、うどんだけを与えるよりもバランスよくいろいろな種類の食べ物を与えたほうがよく成長するそうです。この発電方法で、年間最大180.000キロワットアワーの発電量になります。それが一体どれくらいの電力かというと、年間で一般家庭約40~50世帯の電力を賄える量となっています。
「うどん発電」では2014年の発電スタートから2021年までの8年間に約2500トンの廃棄食品を回収し、800トンの温室効果ガス排出削減に貢献しています。
発電だけじゃない!無駄を限りなくゼロに近づける
さらに、廃棄うどんを使った取り組みは発電だけではありません。発電した後に残る液体や固形物は、さらに肥料に生まれ変わります。それを地域の小麦畑やネギ畑にまいて、讃岐うどんの材料となる食べ物を作っているのです。無駄を極限までなくす、まさに「うどんまるごと循環」です。
さらに毎年「うどんまるごとエコツアー」を開催し、その小麦を使ったうどん手打ち体験や小麦の種まき体験なども実施しています。
最近では旅行会社さんと共同で、オンラインスタディツアーも行っています。
うどん職人さんが画面越しにうどん作りを教えてくれる企画で、ご参加いただいている方にも大変好評です。
-久米さん
その他にもフードバンク支援活動※にも取り組み、地元の製麺所から生活困窮者やこども食堂などにうどんを提供する橋渡し役も担っています。
※何らかの理由で廃棄されてしまう食品を無償で寄贈する活動
日本では1人当たり1日お茶碗1杯の食品が捨てられている
日本全体では年間600万トンにも上る食べ物が廃棄されているといいます。1人当たりに換算すると、「1日1杯のお茶碗」です。また、廃棄される食べ物の半分近くは一般家庭から出るもので、食品ロスの問題は他人ごとではありません。
私たちのプロジェクトは地球全体からしたら、大きなインパクトはありません。
ただ、それでも快適な環境を次世代につないでいく。
廃棄ではなく有効活用していく活動を通じて、そんなメッセージを伝えていけたらと思っています。
-久米さん
「食べきれる量だけを買う」「フードバンクを利用する」など、個人でもできることはたくさんあります。一人ひとり、一日一日の意識を変えれば、きっと社会は変わります。ぜひ一度、身の回りでできるエコを探してみてはいかがでしょうか。
ライタープロフィール
小林悠樹/フリーライター。一橋大学卒業後、冷食メーカーに勤務。2016年脱サラし、宮古島へ。
22年さらなる刺激を求めてポルトガルへ移住。著書は『移住にまつわる30の質問』(キッカケ出版)