コラム
むずかしいからきいてみた
架空の建造物をつくる「前田建設ファンタジー営業部」!生みの親・岩坂さんにインタビュー(前編)
#むずかしいからきいてみた
#エネルギー × “ 〇〇〇〇 ”
なるほど!と思う話題、エネルギーにまつわる雑学、ちょっと誰かにシェアしたくなるエネルギーの話をあらゆる方向からご紹介するこの企画。
第4回のテーマは「エネルギーד建設”」です。
今回は、マジンガーZの格納庫をつくるけどつくらない、うそみたいだけど本当にある、「前田建設ファンタジー営業部」を特集します。
ユニークな取り組みが話題となり、2020年には劇場映画『前田建設ファンタジー営業部』も公開されました。
ファンタジー営業部の生みの親で、現在ICI総合センターの総合センター長を務める岩坂さんに、ファンタジー営業部が生まれた経緯をうかがいました。
お話を聞いて見えてきたのは、「仕事に真摯な姿勢が人を動かす」ということ。一見、突拍子もないプロジェクトであっても、誠意と熱意をもっていれば人はついてくるということを岩坂さんから教えてもらいました。
前田建設ファンタジー営業部とは?
「前田建設ファンタジー営業部」は、アニメやマンガに登場する建物を現実世界でつくるとしたらどうなるか、を真剣に考えるウェブサイトです。
マジンガーZの格納庫、グランツーリスモに登場するレーシングコース、機動戦士ガンダムの基地などの建設がこれまで検討され、ウェブコンテンツ上では設計図はもちろんのこと工期や費用なども細かく公開されています。
こちらは宇宙戦艦ヤマトの建造準備および発進準備工事費用の内訳書。見ていただくとわかる通り、「そこまでやるの!?」というこだわりようです。
このサイトを運営するのは、建設大手の前田建設工業株式会社。2003年のサイトオープン以降、このおもしろい取り組みが話題となり、書籍化や映画化もされています。
建設業のイメージを変えたかった
建設業といえば、「暗い」「まじめ」といったイメージが浮かぶ方が多いかもしれません。前田建設がファンタジー営業部を立ち上げたのもそれがきっかけ。発起人の一人である岩坂さんは次のように語ります。
2000年前後、建設業のイメージは決してよくありませんでした。それを払拭したいと思い、立ち上げたのがファンタジー営業部です。
-岩坂さん
着想のきっかけのひとつとなったのが当時、江崎グリコさんが発売した「タイムスリップグリコ」。”なつかしい20世紀へタイムスリップ”をコンセプトとした「大人向けグリコ」で、レトロな乗り物や家電、アニメキャラなどの精巧なフィギュアが大ヒットしました。
昔のものでも細部にこだわって再現すれば、人に喜んでもらえるんだなと感じました。さらに当時、自動車メーカーのHONDAさんがつくる二足歩行ロボットが話題になって。ロボットは作れないけどロボットの格納庫なら、うちのノウハウで作れるんじゃないかと。
-岩坂さん
そうして立ち上がったファンタジー営業部が最初に手掛けたのは「マジンガーZの格納庫」。マジンガーZのオープニングテーマでおなじみの、汚水処理場型地下格納庫からせりあがって巨大な機体が現れます。
「アニメに登場する建造物をつくる」というアイディアは、なんとも奇想天外。そしてそのこと以上に、大手企業がファンタジー営業部という奇抜な企画にGOサインを出したことも驚きです。
高度経済成長を支えた「ダムの前田」
ファンタジー営業部のある前田建設は、「ダムの前田」という異名をもつ会社です。高度経済成長期には日本のライフライン整備に大きく貢献し、昭和中期に建設された「田子倉ダム」(福島県只見川上流)は当時東洋一のスケールを誇るダムとしても知られていました。
ここ以外にも数多くのダムを手掛けており、前田建設はダム建設のリーディングカンパニーとしての地位を築いています。
さらにダムだけでなく、あなたも一度は見たり行ったりしたことのある有名な建造物も前田建設が携わったもの。たとえば、青森県と北海道を結ぶ「青函トンネル」、日本の大動脈「東海道新幹線」などの建設に関わり、まさに縁の下の力持ちです。
地味な仕事ほど振れ幅がある
「きつい、汚い、危険」の3Kとも呼ばれてしまう建設業界。道路や建物といったインフラ建設は地味な仕事というイメージが強く、一つひとつの作業や技術には派手さがないかもしれません。しかし、そういった仕事がなければ私たちの生活は成り立ちません。普段何気なく使っている電気や道路などの生活インフラは、確実に建設業によって支えられているのです。
気候変動問題にも積極的
前田建設は2009年に気候変動問題にも取り組んでおり、「環境経営No.1」をスローガンに掲げ、特に再生可能エネルギー事業に力を入れてきました。太陽光発電所やバイオマス発電所などを日本各地に建設しています。
世界に目を向ければ、2015年のパリ協定採択をきっかけにグローバルな規模でも気候変動問題への対応が進んでいます。先進諸国を中心に「2050年カーボンニュートラル」の目標が設けられており、各国が温室効果ガス削減のために日夜取り組んでいる状況です。
カーボンニュートラル実現のためには、自治体も個人も企業も、それぞれが環境問題への意識を高めなくてはなりません。使い捨てプラスチック製品をなるべく使わない、食べ物を残さない、公共交通機関を積極的に使うなど、個人でできる気候変動対策にはさまざまなものがあります。
また、企業にとっても前田建設のような気候変動への取り組みは、持続的成長をするためにも今後さらに重要性は高まっていくでしょう。
私たちは本業である建設という仕事にまじめに取り組んできました。プロの目線があるからこそファンタジー営業部の面白さは成り立つんです。さらに、建設という地味な業種だからこそサプライズを生みやすい。そこに着目して、建設業の新たな側面にスポットライトを当てたのがファンタジー営業部なんです。
-岩坂さん
今やるのであればYouTuberとして建設業のおもしろさをアピールしている、と語る岩坂さん。たとえ突拍子もないアイディアでも、本気でやれば仕事になる。生き方も働き方も多様化する今だからこそ、真摯に何かに取り組むことが重要なのかもしれません。
ライタープロフィール
小林悠樹/フリーライター。一橋大学卒業後、冷食メーカーに勤務。2016年脱サラし、宮古島へ。
22年さらなる刺激を求めてポルトガルへ移住。著書は『移住にまつわる30の質問』(キッカケ出版)