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【お仕事コラム】ミライを切り拓く!原子力のお仕事インタビュー 第11回
お仕事コラムとは?
中高生の方々に向けて、原子力や放射線に関連する業界やお仕事について、より深い興味・関心・理解を得られるような情報を提供することを目的とした、お仕事紹介インタビューです!
今回はインタビュアーとして、市立札幌開成中等教育学校の皆さんにご協力いただきました。

井野 孝さんと市立札幌開成中等教育学校の皆さん
第11回のインタビューは「京都フュージョニアリングの井野孝さん!」

お仕事紹介(何のお仕事をされていますか?)
私は京都フュージョニアリングという会社で、フュージョン(核融合)エネルギーの開発・産業化に携わる仕事をしています。フュージョンエネルギーとは、太陽のように水素を融合させることで生まれる莫大なエネルギーであり、地球環境に優しい次世代のエネルギー源として注目されています。
私たちは、フュージョンエネルギーの産業化を目指し、フュージョンエネルギーのプラント 1 を実際に作るための技術開発を進めています。私は、プラントの「安全・リスク」の分野に携わっており、フュージョンエネルギーの特徴を踏まえながら、必要な技術を検討しています。検討する中で、様々な人とのやり取りも多くなるため、産業化に向けての対外的なコミュニケーションも重視しつつ、取り組んでいます。
フュージョン(核融合)エネルギーってどんなエネルギーなんですか?
フュージョンエネルギーは、従来の原子力発電で使われている核分裂反応を利用したエネルギーと同じく、核反応という分類なのですが、水素の同位体(重水素や三重水素)を融合させる核融合反応を利用したエネルギーであるという点に違いがあります。フュージョンエネルギーを生み出す施設では、高レベル放射性廃棄物が出ないと考えられているほか、連鎖的な核反応も自然には起きないという安全性上の特長があります。その点からも、次世代のエネルギー源として期待されています。
フュージョンエネルギーは、これまで研究分野の位置付けで研究開発が進められてきました。ただ、国際的な動きとして、最近は研究開発に留まらず、実用化に向けた工学的な実証段階に入っています。正確に表現することは難しいですが、研究分野として向き合う部分がある一方で、工学的な実証を進めることで実証化・商業化を加速する動きが、民間を中心に活発化しています。また、商業化に向けた技術開発、サプライチェーンの構築に関する競争も世界中で繰り広げられています。
また、フランスでは、フュージョンエネルギーの実現性を研究するための国際熱核融合実験炉(ITER)が建設されています。そこでは、世界各国が協力しながらITERの開発を進めており、日本も参加し、大きな貢献をしています。将来、ITERで培った経験が実験・研究の段階で終わらずに商業化まで繋がれば、日本にとって大きなメリットです。私たちも商業化に向けた動きの中で技術開発や事業開発を通じ、最終的には世界のエネルギー問題解決に貢献したいと考えています。
【参考】核融合と核分裂(※画像クリックで図面集に遷移します)
お仕事のやりがいはなんですか?
この10年で世界のフュージョンエネルギー業界は大きく変わりました。欧米を中心に、フュージョンエネルギーの新しいビジネスを作り、新たな市場を開拓するスタートアップ企業が出てきました。日本国内でも数社のスタートアップ企業が立ち上がっています。その背景には、国が次世代エネルギーとして期待していることに加え、Google等の巨大企業も次世代エネルギーの選択肢としてフュージョン分野に投資をしている点が挙げられます。国内外で民間投資を通じてフュージョンエネルギーの実現に向けた開発競争が加速しているので、そういった大きな動きを肌で感じながら仕事ができることはやりがいの1つかもしれません。
また、フュージョンエネルギーに限らず、原子力分野は多種多様な研究や技術が集合しているので、フュージョン関連技術は発電だけでなく、医療分野など他の産業にも応用できる可能性があります。この分野の応用や実証の過程などで得られた成果が、他の産業への発展や革新をもたらすことに繋がるかもしれません。
京都フュージョニアリングは、『日本初の核融合スタートアップ』として2019年に創業しました。社員数も少しずつ増えて、現在では150名程度になり、徐々に技術や事業の領域を広げることができています。実際に、世界各地の核融合研究機関やスタートアップ企業と連携しながら事業を前に進めており、優秀なエンジニアやビジネスパーソン、多様な分野の同僚が真剣に目の前のプロジェクトに向き合っています。フュージョンエネルギーに対する社会の大きな動きの中で、産業そのものを作ることに関与し、貢献していく、それを最前線でできることも大きなやりがいです。

原子力分野に興味を持ったきっかけは何ですか?
もともと大学では、工学の観点から事故や災害を防ぐ、信頼性工学・安全工学といった分野を学び、プラントのリスク分析をテーマに研究していました。その流れで就職活動ではプラント関係の会社を中心に考え、最終的に原子力発電に関わる会社に入社しました。入社後に福島第一原子力発電所の事故があり、大きなショックを受けましたが、会社の制度を通じて原子力工学を学べる大学に短期留学する機会をいただき、その後、安全に関わる分野の業務に携わるようになりました。フュージョンエネルギーには、数年前、京都フュージョニアリングに転職したタイミングで関わるようになりました。今の仕事も、原子力や安全に関わる重要な分野ですので、前職から今に至るまで、広い意味では同じフィールドの中で仕事をしていると考えています。これまでの経歴を振り返ると、「安全」に興味を持ったことが、今の仕事にも繋がったのではないかと思います。

学生たちの質問に対し、丁寧に回答する井野さん
学生時代にやっておいた方が良いことはありますか?
中高生のうちに特別な勉強が必要とは思いませんが、何か一つ熱中できるものを見つけてとことん突き詰める。あるいは、逆に幅広く色んなことに興味を持ってちょっとしたことでも調べたり、行動してみたりと、自分の性格や興味の方向性に素直に向き合うのは大切な気がします。私は高校時代、サッカー部に所属していて、いろんな意見や主張、様々な方向性を持った仲間たちと同じ目的の下で協力し、何かを達成する楽しさや大切さを学びました。そうした経験が、今のチームでの仕事にも活かされているように思います。
今後の原子力やフュージョンエネルギーはどうなっていくと思いますか?
エネルギーは誰もが関係することなので、エネルギーの既存の課題に向き合うことは人類の未来を作る上で重要です。将来、フュージョンエネルギーの実用化を果たせれば、地球のエネルギー問題の解決に大きく貢献できると考えています。日本は技術力が高い国なので、世界のフュージョンエネルギー市場で十分に競争できる可能性があります。私たちも、日本がフュージョンエネルギーの分野でリードできるよう、努力していきたいと思っています。
(今回のインタビューのまとめ)
学生の皆さんにとって、核融合エネルギーは未知の分野かもしれません。
今回のインタビューを通じ、市立札幌開成中等教育学校の皆さんは、
未来のエネルギーについて学び、興味を持つきっかけになったようです。
「核融合という言葉自体は知っていたけれど、実際にどんな技術なのか詳しく知ることができました。
将来のエネルギー問題にどう貢献できるのか、考えるきっかけになりました。」
「エネルギーの未来について、私たち自身が考えていくことが大事だと感じました。」
未来のエネルギーを支える核融合。その最前線で働く井野さんの言葉には、大きな夢と希望が詰まっていました。
これからも核融合技術の発展に注目していきたいですね!
ライタープロフィール
浅野 文宏/ICT事例、医療メディアでのインタビューなど、テック系の記事を多く手掛ける。
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1 発電所内のボイラ、タービン、発電機などの電力を生み出す設備の総称のこと。