コラム
笑いは万薬の長
「福島子どもの未来を考える会」ベラルーシ派遣団同行記 II
宇野 賀津子 氏 《(公財)ルイ・パストゥール医学研究センター インターフェロン・生体防御研究室長》
『原子力文化2017.12月号』掲載
「福島子どもの未来を考える会」ベラルーシ派遣団同行記 II
前回、「福島子どもの未来を考える会」ベラルーシ派遣団に同行して、ズブリョーノック保養施設に行ったことを報告した。私がベラルーシに行きたいと考えたのは、2013年5月に出版された直後に『ベラルーシ政府報告書』を読んだことにある。恥ずかしながら、チェルノブイリ原発事故の被害は、ウクライナよりベラルーシの方がひどかったことはこの時初めて知った。
ほぼ同時期に『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』という本の邦訳も出版され読んだが、2つの本の論調の違いにどちらがチェルノブイリの本当か考え込んだ。2016年には『チェルノブイリ事故から25年:将来へ向けた安全性2011年ウクライナ国家報告』の邦訳も出版された。
2つの国家報告は2011年に出された物であるが、『ベラルーシ政府報告書』は、事故被害克服に向けたプログラムや、その成果について書かれている。社会保障システムや、汚染モニタリング、防護処置、被災者の健康管理についても書かれていて前向きである。一方、『ウクライナ国家報告』は、健康影響への記述が詳しく、『ベラルーシ政府報告書』では甲状腺がん以外の健康被害についてはあまりふれられていない。
ベラルーシの経験からあげられた課題は1.正確な汚染マップの作成、2.住民の健康管理、3.心理面のリハビリ、であった。住民の健康管理では、汚染地域に住む子どもたちは年に1回1か月程度汚染のない場所で生活し、体内に蓄積されたセシウムを排出することが出来ると考えているとのことで、保養施設はそのためのものだと書かれていて、そのプログラムに、福島の子どもたちを招待してくださったのだと理解した。
ベラルーシ派遣団の子どもたちには、ベラルーシの基準から判断しても懸念されているような汚染はなく、特別プログラムも必要ではなかったということになる。『ウクライナ国家報告』は事故被害を克服するためのプログラムとして、法的整備面が多くまた健康対策として不十分だった点の反省も書かれていて、ベラルーシに比べてあまり成功していないとの印象を持った。
ベラルーシに行ってわかったことだが、ベラルーシは砂質であり、福島は粘土質という違いを理解した上で、いろいろな対策を考える必要があるだろうと思った。幸いにして福島では土壌汚染の割に食品へのセシウムの移行が軽微であり、チェルノブイリ事故では汚染された牛乳からの放射性ヨウ素の影響が大きかったことが指摘されているが、その点は日本ではほとんど心配ないとベラルーシの土をみて思った。
ベラルーシはチェルノブイリ事故で一番大きな被害を受けた国であると同時に、旧ソ連が崩壊したあと一番発展した国でもあると書かれていた。国民一人当たりのGDPは、事故前を100とするとベラルーシは300、ソ連は180、ウクライナは80とのこと。実際私が見たベラルーシは、それがウソではないと確認することが出来た。
10月に帰国報告会があり、派遣団の子どもはグループに分かれて報告した。ベラルーシでの経験から報告会までの少しの間に、皆成長していたように思った。報告をするために、今一度自分は何のためにベラルーシへ行こうとしたのか、福島の復興にどう貢献出来るか自身に問いかける中で成長したと感じた。
(『原子力文化2017.12月号』掲載)
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