コラム
笑いは万薬の長
「我々は福島から何を学んだか?」シンポジウム
宇野 賀津子 氏 《(公財)ルイ・パストゥール医学研究センター インターフェロン・生体防御研究室長》
『原子力文化2018.5月号』掲載
「我々は福島から何を学んだか?」シンポジウム
3月18日に大阪で、翌日からの放射線影響の国際会議に先だって「我々は福島から何を学んだか?~市民と科学者の対話~」シンポジウムが開かれた。
登壇者は、ヴォルフガング・ヴァイスさん(国連科学委員会元議長)「リスク管理におけるコミュニケーションの役割」、ウルリケ・クルカさん(ドイツ放射能防護庁)「私たちは過去の災害から教訓を得ることができるのか?リスクと安全性」、そしてゲイル・ウォロシャックさん(シカゴ大学)「低線量放射線の影響」と、RIセンターの角山雄一さん「中学生・高校生たちの手による自然環境放射線マッピングTEAMゆりかもめ」、民族学の高垣雅緒さん「福島県飯館村帰村民の民族史調査」、医師の坪倉正治さん「福島県南相馬市を中心としたホールボディーカウンターによる地域住民の内部被曝調査」であった。こんなに多彩な研究者が一堂に会したのは、半日のシンポジウムとしては珍しいのではなかろうか。
この会議は、京都の女性研究者が中心となって、準備を行なった。特に自慢すべきは、高い関心を持つ市民の方、外国人登壇者を含め2か月ほど前からメーリングリストで意見交換をしたことである。
英語と日本語が並列し、さらにはドイツ語までが飛び交った。当日通訳を務めた英文学が専門の木下さんは『放射線必須データ32』を読破し、外国人演者との意見交換の仲立ちをし、実行委員長で医師の鈴木さんとの事前のメールのやりとりを含め、送られてきた資料の日本語訳も用意してくれた。市民の方も議論に加わり、事前に質問を投げかけたりした。従って、会議の前日に登壇者に会ったときは、初対面とは思えなかった。その過程でGoogle翻訳って意外と使えるな、と思った。
会議の後半では、ホームページを通じて寄せられた質問や会場からの質問も整理して、演者に質問がなされた。短時間での議論はまだまだ結論には至っていないが、市民と科学者の対話が必要であること、また分野の異なる科学者間での意見交換はもっと必要であるということが確認された。
この会に出席されたある研究者は、「会場を含め、それぞれの方が本音で発言されており課題の認識が高まりました。これだけ議論が噛み合う会は、なかなかありません。会場の総合討論の中で、専門家と住民の間の対話に課題があるだけでなく、専門家同士の意思疎通も良くないとの意見が出ていましたが本当にそうですね」と。
今回は理系のみならず文系の女性研究者にも協力いただいたが、放射線影響に関して大きなギャップがあった。文系の研究者は、「子を持つ母親感覚での質問だ」と言ったりもした。その中で、ある文系の方は、「フォーラムの目的は『対立』ではなく、『共有』で、『ボウリング』ではなく、『キャッチボール』が重要ですね」、と言われた。その通りで、今回のフォーラムは「共有」という目的はある程度達せられたが、「キャッチボール」には時間が足りなかったかと。
会場から寄せられて、答えきれなかった質問も多くあるが、外国人登壇者も含め後日答えていただいた分もある。いずれ「市民と科学者の放射線コミュニケーションネットワーク」のホームページに掲載されるだろう。
(『原子力文化2018.5月号』掲載)
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