解説 ホーム > 解説 > その他 > 北海道大規模停電にみるリスクと備え ― 深夜の大地震時には電気の使用を10分間は控え目に ― その他 北海道大規模停電にみるリスクと備え― 深夜の大地震時には電気の使用を10分間は控え目に ― 2018年は、9月の北海道胆振東部地震や、集中豪雨、台風など、自然災害による停電被害が相次いだ年でした。「使えて当たり前」の電気がある日使えなくなったら? 今後も大停電は起こり得るのでしょうか。 (株)ユニバーサルエネルギー研究所・代表取締役社長の金田武司さんにお聞きしました。(インタビュー収録日:2018年10月3日) ――2018年9月に北海道胆振東部地震など、自然災害による大規模停電が起こりました。今後日本のどこでも同じように停電は起こり得るのでしょうか。 停電は、私たちが電力システムに依存する生活を送る限り、いつでもどこでも発生し得るものです。特に、電力需給が逼迫する真夏と真冬に停電は起きやすくなります。夏は台風・水害、冬は大雪など自然災害も多く、停電の原因は無数にあります。この停電が起きやすい時期こそ、電力供給が途絶えると人命にかかわることになりかねません。 これまでの災害や事故で明確になったように、私たちは何事も「絶対」はあり得ないということを認識しなければならないと思います。 今後、気候・季節や燃料調達などのさまざまな状況に応じて、潜在的に大停電が起きる可能性はあります。特にブラックアウト(全系崩壊)が起こるような急激な電力需要の変化は、電気を大量に使う都市部で起きやすいのは確かです。 例えば、洪水や液状化などであれば注意すべき「ハザードマップ」などをつくることができます。しかし、自然災害と違って、停電の場合は、どこにその影響が波及するのか、どこで起こりやすいのか予測できません。 ですから、どこでも「停電は起こり得る」と考え、備えておくのが良いでしょう。 ――北海道の停電の際は、病院、鉄道、航空、物流、乳業と被害が多方面に波及しました。 日本で地震や津波など自然災害が起きると、まず何が起こるか。 こんな危険な国ではビジネスができない、と海外に人が流れ、産業の空洞化が起きる可能性があります。さらに電気の供給が止まれば、日本の産業にとっても大きな打撃です。 その他、医療機関が動かない、銀行ATMが動かない、鉄道が動かない等々、停電により連鎖的に発生する全てが「リスク」になるのですが、多くの人がリスクに備えているわけではありません。 東日本大震災後に病院、薬局、老人ホームなどを回って震災後の停電時に、どう対応したのか、聞き取りをしたことがあります。冷蔵保存など、温度管理が必要な医薬品は使えなくなる他、カルテも電子カルテですから、パソコンが動かなければ調剤もままなりません。エレベーターが止まっていれば寝たきりの方を移動させることもできません。その他にも流動食をつくるために電動ミキサーを車のバッテリーにつないで何とか凌いだ、という方もいらっしゃいました。 大停電が起きた場合、波及的に何が起こるのか、マスコミがもっと発信すべきではないでしょうか。事象の表層的なことだけではなく、このような「潜在的なリスク」が意識されねばならないと思います。 ――電源を多様化、分散化しておくべきだったという報道もありました。 大都市や広範囲な地域の電力供給の大半を、一つの発電所だけで担うことは、大きなリスクです。 特に北海道の地震は、電力需要の小さい深夜の時間帯に起こりました。需要の小さい時間帯であるがゆえに、苫東厚真火力発電所が電力需要の半分を担っていたのですが、震源が偶然発電所に近い場所となってしまいました。 一つの電源に頼るのではなく、ベース用から調整用まで、それぞれを担う多様な電源が互いに助け合う構成であれば、ブラックアウトが起きにくいでしょう。 もう一つ、私が気になるのは、自由化の停電への影響について、あまり議論されていないことです。その是非ではなくリスクを認識すべきと思います。また、出力が急変する新エネルギーも、導入することと共に、そのリスクを認識することが重要です。 アメリカでは、過去に行き過ぎた自由化が大停電の原因になったとメディアが報じています。 自由化とは「競争」です。自分の身を守るために電力を供給している各社が送電を停止(解列)すれば、停電のリスクになります。電気料金を下げるために自由化を行ないましたが、競争=ビジネスであるがゆえに公共性の高い事業では自己矛盾をはらむ結果となる可能性があります。 実際にアメリカの西海岸での大停電(2000年)の原因になりました。アメリカでは当時、売電価格の上限額が決まっていましたが、それ以上の燃料コストがかかったため、発電所は送電を止めてしまったのです。 このように、行き過ぎた自由化を行なえば、例えば「今日は儲からないから送電をやめる」という会社が出てきます。困るのは一般国民と産業です。このような事態になることもあり得るのです。リスクをきちんと認識した上で事業、制度をつくることが重要です。 ――金田さんは2018年8月に『東京大停電』を上梓されています。東京などの大都市で大停電が起こるリスク、エネルギー資源供給が途絶するリスクなどについて書かれていますね。 なかなか停電しないと気づかないことですが、「電気がなくて困る」原因は事故以外にもあります。 電気をつくるためにはエネルギー資源が必要ですが、日本はその9割を海外に頼っています。もし海外からの供給が途絶したら、私たちは電気を使うことができなくなるのです。エネルギー自給率が8%(2016年)の日本で、海外の資源に頼りきるということ事態、恐ろしいことと認識すべきです。 日本では、原子力がほとんど停止している今、多くをLNG(液化天然ガス)に頼っています。私たちが電源について考えるとき、発電時のリスクのみに注目しがちですが、輸送時、採掘時、新しい電源を開発するときのリスクなど、各電源にそれぞれのリスクがあります。発電時だけでなく、エネルギー資源が日本に届くまでのリスクにもっと着目すべきです。 ――停電に備え、私たちができることは。 火災マップや洪水マップでリスクを認識するのと同様に、電気を使用することのリスクを認識すべきでしょう。 乾電池式のラジオなど情報手段を備え、また枕元に懐中電灯などを置いておくことも大事ですね。 今回、北海道での地震は深夜に起きましたが、地震直後に起きた方々が、一斉に照明やテレビを使い始めて電力需要が急増し、3度にわたる強制停電で需要を調整しようとしましたが、追いつきませんでした。 もし真夜中に地震が起きたら、まず冬や夏であれば空調をつけることを少し控えて、照明を一度に煌々とつけず、必要最小限に抑えるべきと思います。10分間くらいの調整が大停電を抑える大きな効果を発揮します。 地震の後に、火災、地崩れが起きるように、電気が止まって困るだけでなく、副次的な事故が起こります。私たちは豊かさと引き換えのリスクを認識し、身を守るために歴史に学び教訓をいかすことが重要です。 今、日本の災害リスクを再確認する、ターニングポイントに来ているのではないでしょうか。 金田 武司 氏 工学博士。東京工業大学大学院エネルギー科学専攻博士課程修了。(株)三菱総合研究所勤務を経て、2004年(株)ユニバーサルエネルギー研究所を設立。2018年8月に新著『東京大停電』を出版。 この記事に登録されたタグ エネルギーミックス日本のエネルギーブラックアウト このページをシェアする 関連記事 マンガ『大停電が起きたら』遮断された世界(マンガ『大停電が起きたら』Ep1)LNGタンカーの爆発(マンガ『大停電が起きたら』Ep2) Copyright(C) Japan Atomic Energy Relations Organization All Rights Reserved.
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北海道大規模停電にみるリスクと備え
― 深夜の大地震時には電気の使用を10分間は控え目に ―
2018年は、9月の北海道胆振東部地震や、集中豪雨、台風など、自然災害による停電被害が相次いだ年でした。「使えて当たり前」の電気がある日使えなくなったら? 今後も大停電は起こり得るのでしょうか。 (株)ユニバーサルエネルギー研究所・代表取締役社長の金田武司さんにお聞きしました。(インタビュー収録日:2018年10月3日)
――2018年9月に北海道胆振東部地震など、自然災害による大規模停電が起こりました。今後日本のどこでも同じように停電は起こり得るのでしょうか。
停電は、私たちが電力システムに依存する生活を送る限り、いつでもどこでも発生し得るものです。特に、電力需給が逼迫する真夏と真冬に停電は起きやすくなります。夏は台風・水害、冬は大雪など自然災害も多く、停電の原因は無数にあります。この停電が起きやすい時期こそ、電力供給が途絶えると人命にかかわることになりかねません。
これまでの災害や事故で明確になったように、私たちは何事も「絶対」はあり得ないということを認識しなければならないと思います。
今後、気候・季節や燃料調達などのさまざまな状況に応じて、潜在的に大停電が起きる可能性はあります。特にブラックアウト(全系崩壊)が起こるような急激な電力需要の変化は、電気を大量に使う都市部で起きやすいのは確かです。
例えば、洪水や液状化などであれば注意すべき「ハザードマップ」などをつくることができます。しかし、自然災害と違って、停電の場合は、どこにその影響が波及するのか、どこで起こりやすいのか予測できません。
ですから、どこでも「停電は起こり得る」と考え、備えておくのが良いでしょう。
――北海道の停電の際は、病院、鉄道、航空、物流、乳業と被害が多方面に波及しました。
日本で地震や津波など自然災害が起きると、まず何が起こるか。
こんな危険な国ではビジネスができない、と海外に人が流れ、産業の空洞化が起きる可能性があります。さらに電気の供給が止まれば、日本の産業にとっても大きな打撃です。
その他、医療機関が動かない、銀行ATMが動かない、鉄道が動かない等々、停電により連鎖的に発生する全てが「リスク」になるのですが、多くの人がリスクに備えているわけではありません。
東日本大震災後に病院、薬局、老人ホームなどを回って震災後の停電時に、どう対応したのか、聞き取りをしたことがあります。冷蔵保存など、温度管理が必要な医薬品は使えなくなる他、カルテも電子カルテですから、パソコンが動かなければ調剤もままなりません。エレベーターが止まっていれば寝たきりの方を移動させることもできません。その他にも流動食をつくるために電動ミキサーを車のバッテリーにつないで何とか凌いだ、という方もいらっしゃいました。
大停電が起きた場合、波及的に何が起こるのか、マスコミがもっと発信すべきではないでしょうか。事象の表層的なことだけではなく、このような「潜在的なリスク」が意識されねばならないと思います。
――電源を多様化、分散化しておくべきだったという報道もありました。
大都市や広範囲な地域の電力供給の大半を、一つの発電所だけで担うことは、大きなリスクです。
特に北海道の地震は、電力需要の小さい深夜の時間帯に起こりました。需要の小さい時間帯であるがゆえに、苫東厚真火力発電所が電力需要の半分を担っていたのですが、震源が偶然発電所に近い場所となってしまいました。
一つの電源に頼るのではなく、ベース用から調整用まで、それぞれを担う多様な電源が互いに助け合う構成であれば、ブラックアウトが起きにくいでしょう。
もう一つ、私が気になるのは、自由化の停電への影響について、あまり議論されていないことです。その是非ではなくリスクを認識すべきと思います。また、出力が急変する新エネルギーも、導入することと共に、そのリスクを認識することが重要です。
アメリカでは、過去に行き過ぎた自由化が大停電の原因になったとメディアが報じています。
自由化とは「競争」です。自分の身を守るために電力を供給している各社が送電を停止(解列)すれば、停電のリスクになります。電気料金を下げるために自由化を行ないましたが、競争=ビジネスであるがゆえに公共性の高い事業では自己矛盾をはらむ結果となる可能性があります。
実際にアメリカの西海岸での大停電(2000年)の原因になりました。アメリカでは当時、売電価格の上限額が決まっていましたが、それ以上の燃料コストがかかったため、発電所は送電を止めてしまったのです。
このように、行き過ぎた自由化を行なえば、例えば「今日は儲からないから送電をやめる」という会社が出てきます。困るのは一般国民と産業です。このような事態になることもあり得るのです。リスクをきちんと認識した上で事業、制度をつくることが重要です。
――金田さんは2018年8月に『東京大停電』を上梓されています。東京などの大都市で大停電が起こるリスク、エネルギー資源供給が途絶するリスクなどについて書かれていますね。
なかなか停電しないと気づかないことですが、「電気がなくて困る」原因は事故以外にもあります。
電気をつくるためにはエネルギー資源が必要ですが、日本はその9割を海外に頼っています。もし海外からの供給が途絶したら、私たちは電気を使うことができなくなるのです。エネルギー自給率が8%(2016年)の日本で、海外の資源に頼りきるということ事態、恐ろしいことと認識すべきです。
日本では、原子力がほとんど停止している今、多くをLNG(液化天然ガス)に頼っています。私たちが電源について考えるとき、発電時のリスクのみに注目しがちですが、輸送時、採掘時、新しい電源を開発するときのリスクなど、各電源にそれぞれのリスクがあります。発電時だけでなく、エネルギー資源が日本に届くまでのリスクにもっと着目すべきです。
――停電に備え、私たちができることは。
火災マップや洪水マップでリスクを認識するのと同様に、電気を使用することのリスクを認識すべきでしょう。
乾電池式のラジオなど情報手段を備え、また枕元に懐中電灯などを置いておくことも大事ですね。
今回、北海道での地震は深夜に起きましたが、地震直後に起きた方々が、一斉に照明やテレビを使い始めて電力需要が急増し、3度にわたる強制停電で需要を調整しようとしましたが、追いつきませんでした。
もし真夜中に地震が起きたら、まず冬や夏であれば空調をつけることを少し控えて、照明を一度に煌々とつけず、必要最小限に抑えるべきと思います。10分間くらいの調整が大停電を抑える大きな効果を発揮します。
地震の後に、火災、地崩れが起きるように、電気が止まって困るだけでなく、副次的な事故が起こります。私たちは豊かさと引き換えのリスクを認識し、身を守るために歴史に学び教訓をいかすことが重要です。
今、日本の災害リスクを再確認する、ターニングポイントに来ているのではないでしょうか。
金田 武司 氏
工学博士。東京工業大学大学院エネルギー科学専攻博士課程修了。(株)三菱総合研究所勤務を経て、2004年(株)ユニバーサルエネルギー研究所を設立。2018年8月に新著『東京大停電』を出版。
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