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【寄稿】コロナ危機とエネルギー危機 ~第2話:産油国とコロナ危機~


掲載日2020.5.12

株式会社 ユニバーサルエネルギー研究所 代表取締役社長 金田 武司 氏

コロナ危機の影響について、第1話では自給の重要性とエネルギー資源の特殊性に伴うエネルギー業界への影響をお伝えいたしました。さて、今回第2話では中東やアメリカなど産油国で起きていることと、日本への影響を中心に考えていきます。


(1)米国エネルギー産業への打撃 ~コロナと石油の流通~


昨年(2019年)春、エネルギー業界にとって大きなパラダイムシフトが起きました。サウジアラビアやロシアを抜いてアメリカの石油生産量が世界一になったことが報じられ、アメリカの存在感が一段と増しました。なぜでしょうか。


世界三大産油国の一日当たりの原油生産量(2014年1月~2020年1月)
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(出典:資源エネルギー庁ウェブサイト


きっかけは、ハリケーンでした。2005年8月、史上最大のハリケーン『カトリーナ』がメキシコ湾を襲い、一夜にして、米国は原油生産施設の30%、天然ガス生産施設の20%、石油精製施設の50%を共に失い、原油と天然ガス価格が急騰したのです。

また、一部生産施設が被害を受けていなかったとしても輸入した資源を沖合から陸地に輸送するパイプラインなどが寸断され、海外からの燃料供給が途絶えるなど壊滅的な被害を受け、大停電が発生しました。

このようなことから国内のエネルギー資源の開発、すなわち中東からの燃料より多少割高になったとしても、エネルギーセキュリティ確保の面から国内産を推進し、『シェール革命』と大宣伝したのでした。

さて、世界で原油価格が大暴落している現在、シェールオイル、シェールガスの価格も暴落しているのです。結果として米国エネルギー企業の経営を直撃しているのです。

多くのシェールオイル採掘企業は低格付債として金融機関からの融資で資源を開発しています。石油も他の天然資源も同様ですが、いわゆる『山師』ですから、開発にはもともとリスクも伴い、高い金利で事業資金を調達してきた現実があるのです。


(2)エネルギー企業の破綻 ~原油クラッシュがはじまった~


米国では既にエネルギー企業の破綻が始まっています。シェールガスはシェールオイルの生産時に随伴として産出されますが、中東の原油のように穴を掘るだけではシェールオイルは生産されません。オイルを大量に含む地層(頁岩の層)に穴をあけ、地層に沿って横方向にパイプを伸ばし、地層を破壊しつつ薬剤を注入してシェールオイルは採掘されます。

考えてみればコストのかかる採掘方法であることは間違いありません。

石油採掘が多く行われているテキサス州では中小の採掘業者の多くは既に破綻し、大手であっても新規投資は出来ず、事業縮小に追い込まれています。

しかも、コストのかかる採掘方法である限り、中東からの原油に太刀打ちできるはずも無く、コロナの影響により需要が激減したことで、米国を世界一のエネルギー輸出国へと押し上げた『シェール産業』は米国の経済に負の連鎖をもたらしつつあります。


(3)リーマンショックとコロナショック ~エネルギー産業から資金が離れる~


さて、このエネルギー産業の足元ともいえる『シェール産業』の破綻劇はリーマンショック続編とも考えられるのです。

リーマンショックでは、いわゆる低格付債(住宅ローン)の回収がおぼつかなくなり2008年9月に金融機関(リーマンブラザーズ)が破綻しました。このため住宅ローンをベースとした低格付債に投資していた資金は同様に利回りの良いエネルギー産業へ流れたのです。しかも、その主要な移動先は今回破綻が始まっている『シェール産業』でもありました。

エネルギー産業は他産業と比べて安定的であり、リスクはありますが、投資の価値の高い『シェール産業』は格好の投資対象でした。

金融機関は、今回のような急激な資金の流れに弱い。バンク・オブ・アメリカでは3月の初旬1週間でエネルギー関連の資金が112億ドル流出したと報道されています。

結果として、融資先の信用低下と合わせて、債券不履行のリスクをヘッジするための準備(貸倒引当金)をしなければならず、エネルギー産業を支えてきた銀行の経営は大きく圧迫されているのです。

今回のコロナ危機ではアメリカの屋台骨ともいえるエネルギー産業と共に、それを支えてきた金融システムを直撃しています。


(4)ドルの価値とエネルギー資源 ~エネルギー資源のもう一つの価値~


1971年8月15日。この日はいったい何の日でしょうか。8月15日が『終戦記念日』であることは誰もが知っています。

この日、当時ニクソン大統領は、ドルと金の兌換の取りやめを突然発表しました。また、合わせてドルと円の固定為替をやめることを宣言しました。第二次世界大戦の終結、すなわち日本にとっては敗戦の日に、わざわざ宣言したのはなぜでしょうか。

それは、ニクソン大統領の演説において明確に述べられています。1ドル360円は明らかに日本にとって有利な為替レートであり、この演説でこのことに言及しています。明らかに日本に対するメッセージでした。

大統領の演説では分かりやすく言い換えると、「日本は戦後十分に経済発展をしてきた。米国と対等に競争できるだけの実力をつけた。これまで米国は十分耐えつつ日本の成長を見守ってきた。為替レートのおかげで米国は日本製品であふれている。もう米国は手を後ろに縛られた状態での競争はしない」という主旨のことを述べています。

背景にはベトナム戦争があり、ドルが世界に散逸し、米国のドル保有は底をつき始めていました。また同様に、保有する金も激減していた時でした。

さて、これまでドルの価値は金が支えていました。なぜならばドルさえあれば、価値が安定している金が必ず手に入ることを米国が保証していたからです。

しかし、その金とドルの兌換をやめたということはドルの価値はもはや金によって保証されないということを意味し、結果的にドルの価値は2割程度下がりましたが、暴落は食い止められたのです。

なぜその程度で済んだのでしょうか。それは、ドルを支えるものを金から石油に切り替えていたからにほかなりません。中東の石油を手に入れる、購入するためにはドルでなければならないというルールを徹底したのです。もちろん、中東の国々は猛反発したのですが、結果として原油の取引の基本条件はドル決済となっています。

それはいまでも続いています。ドルが無ければ中東の安価な石油を手に入れることが出来ないとなれば国がドルを保有しておくことは重要な意味を持ちます。これによりドルの価値は安定します。なので、結果的に金との兌換をやめてもドルの価値は下がりませんでした。

コロナの影響で、世界はいまエネルギー消費が激減し、石油の価格が暴落しています。石油の価値により裏付けされている米国経済、ドル経済にとってもこれは大きな痛手となっているのです。


つづく


株式会社 ユニバーサルエネルギー研究所 代表取締役社長 金田 武司 氏

工学博士。東京工業大学大学院エネルギー科学専攻博士課程修了。(株)三菱総合研究所勤務を経て、2004年(株)ユニバーサルエネルギー研究所を設立。2018年8月に新著『東京大停電』を出版。

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