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【寄稿】コロナ危機とエネルギー危機 ~第4話:エピローグ 社会・経済そして医療への影響~


掲載日2020.5.14

株式会社 ユニバーサルエネルギー研究所 代表取締役社長 金田 武司 氏

過去、社会・経済の大事件はエネルギー構造を変革してきました。そして、いま新たにコロナによる石油・LNG価格の暴落、エネルギー需要の激減、関連産業・企業の経済的ダメージが発生しています。そしてまた、コロナによるエネルギー産業への影響は第3話でお伝えした通り、大変複雑な様相を呈しています。エネルギーは社会の様々な側面と密接に関わり合いがあることから、単に一国の経済問題、エネルギー問題として解決できるとは到底思えません。コロナ危機はエネルギーをどう変えていくのでしょうか。


(1)自国主義とエネルギー ~人・金融・モノが動かない社会~


世界経済はいま、自国至上主義になりつつあります。コロナウイルスの蔓延を防ぐために世界は国境を閉ざしました。今や国際間の人的交流は閉ざされています。しかし、物流は産業の一部として残されています。物流には食料やエネルギー、日用品や医療機器などの生活に必要な物資が含まれます。

金融はどうでしょうか。4月末現在、パンデミックにより国際金融は劇的な影響を受けています。コロナの影響・波及は不確実、複雑な経済減速であることから企業・経済はリスク回避として自己防衛を始めます。世界の企業が4割減益という現実をみれば、新興国への投資は引き揚げられ、新興国からの資金流出は加速していることが理解できます。その中には確実に途上国で行われる資源採掘や新エネルギー開発、および食料生産に関わる投資が含まれています。先進国から見れば自己防衛であり、途上国から見れば自国至上主義とも映ります。

国際通貨基金の見解書・評論(2020年4月14日付け)ではボラティリティがかつてないほど急上昇し、結果として資金の流動性が大幅に低下していることに警鐘を鳴らしています。危険なことは、人と金融が動かないことが食料資源やエネルギー資源の囲い込みへと向かってしまうリスクでしょう。エネルギー資源の無い日本にとっては脅威となり得ます。

コロナの影響で需要が小さくなり価格が暴落することは、健全な経済の結果ではないのです。「病気に瀕したエネルギー産業」の動きとしては、むしろ生産の調整や輸送の面で資源のない日本の弱点が露呈する可能性があると考えた方が自然だと思います。


(2)新エネルギーは救世主になるか ~ポストコロナの経済政策として~


コロナの影響から見れば世界経済は当面、明らかに自国主義が進み、自国の産業を守り、自国民を守ることが優先されると考えられます。

すなわち、自国内での蓄えが重要なのです。例えば、マスクの不足にしても、トイレットペーパーの買い占めにしても、自国、我が家の防衛から生じた現象ではないでしょうか。

例えば、新エネルギーに関して国内では、既に太陽光発電、風力発電のメーカーはほとんど淘汰され、海外からの新エネルギー設備の輸入に頼っているわけです。新エネルギーはCO2を排出せず、エネルギー自給に貢献する、という意味において素晴らしいエネルギー資源ではありますが、日本企業の国際競争力は弱く、世界的なマーケットはほぼ中国の企業の独占状態となっています。また、日本企業の生産であっても実質的に部材の多くを海外から輸入している(例えばマスクや医療機器などの日本メーカー品も多くが海外からの輸入品です)ことを考えれば、新エネルギーの大規模導入により、国内の新エネルギー産業が大盛況とはならないのです。

日本では固定価格買取制度が施行され、年間2兆円以上の事業資金が国民から徴収されています。この2兆円を超える徴収資金の受け皿が日本企業でない限り、ポストコロナの産業復興につなげることは困難ではないでしょうか。


(3)電力需要低下の影響 ~コスト増の連鎖がはじまる~


世界の主要企業はコロナウイルスの封じ込めのために多くの工場を閉鎖し、人・モノ・金の流通を抑制しています。これにより電力の需要は2020年4月末現在で全世界的に20%程度減っていると考えられます。

イギリスでは少ない電力需要に対して、相対的に新エネルギー電力が増加し、卸電力のスポット価格が10%程度低下している(2020年3月末時点)と報道され、今後同様の状況が続いた場合、新エネルギーの出力抑制を行ない、大陸からの国際連系線による電力輸入を制限する必要があるとしています。皮肉なことに電力需要の最大の被害者は新エネルギーとなっているようです。

このような状況はイギリスだけのものではありません。IEA(国際エネルギー機関:International Energy Agency)のF.ビロル事務局長は3月22日に、『コロナの影響で、新エネルギーの出力変動が需要の低下と共に顕在化し、新エネルギーの出力変動への対策がますます重要になる』と述べています。

また、出力の変動に対応するためLNG火力発電所の運用を変動対応にする、すなわち新エネルギーの変動に対する補完的な役割をLNG火力発電所に担わせれば、間違いなくLNG火力発電所は赤字になると、IEAは警告しています。


■新エネルギー出力の変動は、火力発電による調整が必要

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(出典:資源エネルギー庁ウェブサイト)


原子力が無く、石炭を世界から批判され、新エネルギーの出力変動に対応しなければならない日本にとって、唯一の頼みであるLNGが赤字になる、というシナリオがあるのです。コロナの影響はこのように波及します。

コロナの経済危機から脱出するプロセスにおいて、相変わらず新エネルギーの推進に毎年2兆円以上の国民負担を強いることは、産業の支えである電力供給事業に大きな異変を生じさせる可能性があります。


(4)大停電のリスク ~もうひとつの医療崩壊~


多くの国で医療崩壊が起き始めています。それは、受け入れられる容量(ベッド数)に対して、コロナ患者が圧倒的に多く押しかけてくる状態を意味します。そして、医療は電力なしには実現できません。エネルギー産業へのダメージは、『大停電』により、もう一つの医療崩壊を引き起こす可能性があります。

パンデミックの中でまもなく北半球は夏を迎えます。冷房の必要な国・地域・施設・家庭もどんどん増加してくるでしょう。また、台風・ハリケーンが発生する季節となります。急激な電力負荷変動や送配電設備の損傷などによる停電の発生確率は増加します。

産業が多く休業している現状で、電力需要が低下すれば発電設備は十分だと見なされがちですが、実際に近年、最も注目された停電のいくつかは、需要量が低い時期に発生しているのです。典型的な例は2018年9月6日3時7分に発生した北海道の胆振東部地震による北海道全域ブラックアウトです。夜中の3時。最も電力需要が少ない時間帯であるからこそ被害が拡大し、ブラックアウトが生じたのです。


(出典:一般財団法人日本原子力文化財団『エネ百科』-「北海道大規模停電にみるリスクと備え」

多くの工場・事業所・宿泊施設などが休業し電力需要が少なくなっているからこそ、リスクを認識しなければなりません。

さて、2018年、2019年は非常に大きな台風が巨大都市を襲いました。2018年9月、台風21号では関西で240万戸が停電し全面復旧まで16日掛かっています。2019年9月には台風15号により千葉を中心として関東地方で90万戸が停電し、全面復旧までやはり15日掛かっています。この台風による停電は従来あまり見られなかった要因によるもので、『広く広がった毛細血管がそこら中で切断された』とでも表現されるものです。巨大台風による強風(風速60m/s程度)で起きる被害は家の軒先および、至る所で電線を切断し、その発見を阻止します。

このような強風を伴う台風は日本だけではなく、米国で発生するハリケーンも同様の傾向が見て取れます。

このような強風を伴う台風では医療機関への影響は甚大なものとなります。2019年9月の台風15号では千葉県内71の病院が停電し、患者の死亡も起きています。また、医療機関で最も懸念されたのが病院での人工呼吸器の停止や、在宅での酸素療法・在宅人工呼吸療法を受けている患者への対応、さらに患者の安否確認などでした。

大停電により多くの通信が途絶えます。携帯電話による連絡も困難となり、緊急連絡をはじめとする安否確認が出来なくなります。

さらに、コロナによる重症患者の多くは感染症指定医療機関に入院しているのですが、空気感染を防ぐために病室は陰圧になっています。しかし、病院自体が停電になれば、陰圧は出来なくなり、病室の空気は外に通じ、院内に広がってしまうことになりかねません。

昨年、一昨年と日本が見舞われた大災害の教訓を生かし、コロナと戦う医療機関への停電対応も是非早急に進めてほしいものです。



株式会社 ユニバーサルエネルギー研究所 代表取締役社長 金田 武司 氏

工学博士。東京工業大学大学院エネルギー科学専攻博士課程修了。(株)三菱総合研究所勤務を経て、2004年(株)ユニバーサルエネルギー研究所を設立。2018年8月に新著『東京大停電』を出版。

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