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【寄稿】コロナ危機とエネルギー危機 ~第3話:コロナ危機はエネルギー供給を変える~


掲載日2020.5.14

株式会社 ユニバーサルエネルギー研究所 代表取締役社長 金田 武司 氏

コロナ危機の影響について、エネルギー資源の特殊な取引構造と、その暴落が引き起こす産業、金融への影響を見てきました。さて、今回第3話ではエネルギー産業、電力産業への影響についてクローズアップしてみたいと思います。日本はこれまで何度もエネルギー転換が行われました。世界的にもエネルギー転換は大事件が引き金になっています。コロナ危機は世界と日本のエネルギー需給をどのように変えていくのでしょうか。


(1)何がエネルギー変革を引き起こすのか ~社会の出来事とエネルギー~


エネルギーの利用はいつも大きな社会変化が引き金となって変革されます。第2話のテーマとなったリーマンショック(2008年9月)の翌年2009年2月に米国では「米国再生・再投資法」が制定され、リーマンショックからの立ち直りに大きな役割を果たしました。また、リーマンショックの2か月ほど前、新経済財団による提言書「グリーンニューディール」では金融政策とパッケージで低炭素化を推進するため、電力コストの引き下げを目指して原子力発電所の建設を提言しています。

中でもグリーンニューディール提言では経済の復興のために、単に新エネルギーの促進のみならず、発電した熱を有効に活用する「コジェネレーション」や原子力の推進という形で経済の基盤となるエネルギー分野の低コスト化について提言を行ったのでした。

特に、リーマンショック直後に制定された「米国再生・再投資法」では、エネルギー産業の構造改革を目指したのです。

法律の制定に際して、国民への現金給付、社会基盤整備分野、保健・医療分野、教育分野、安全保障・国防分野など様々な分野への投資のなかでエネルギー分野への投資が最も雇用効果が大きいとされ、エネルギー分野へ580億ドルの投資が行われました。そして、45万9000人の雇用創出が期待されることからリーマンショックからの経済復興はエネルギー産業への投資が重要な役割を果たしたといえます。

結果的にリーマンショックはアメリカの弱点である電力系統の老朽化を革新し、再生可能エネルギーの導入を推進、ITと電気事業の融合、大規模な蓄電池の実用化を促進することとなりました。

また、さかのぼること数年前の2005年8月、史上最大のハリケーン『カトリーナ』がアメリカのシェールオイル、シェールガス開発の引き金になったことは第2話でお伝えした通りです。その結果、アメリカは世界最大の石油輸出国となったのです。

さて、一方、日本に目を転じてみると1970年代に起きた2度の石油ショックが日本の産業を壊滅的に破壊し、エネルギー構造を変革し、石油燃料による発電が終焉を迎えました。石油ショックがもたらしたものは、日本においては原子力発電の推進です。

なんと一夜にして石油の値段が4倍にも跳ね上がったのですから、石油、中東への過度な依存からどうしても脱却する必要に迫られたわけです。

このように、経済の大きな変動に応じる形で、社会・経済を根底から支えるエネルギーの改革が進められてきたのです。


(2)コロナ危機の特徴 ~複雑なエネルギー産業への影響~


オイルショックの時は明らかになすべきことが分かっていました。日本が過度に中東に依存し、大きなしっぺ返しを食らったのですから、「省エネ」「新エネ」「原子力」という3本柱、ごもっともなエネルギー政策が推進され、「中東=石油」からの脱却を図ったわけです。


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(出典:資源エネルギー庁ウェブサイト)


そして、コロナ危機が過ぎ去ることを待ついま、何を教訓として学ぶべきでしょうか。

コロナ危機の影響を見る限り、過去、我々が経験してきたことを改めて思い起こさせる事態であることがわかります。特にエネルギーに関して言えば、「特定の国への過度の依存」「貯蔵できない潜在リスク」「硬直化した長期契約」「米国エネルギー産業の弱体化」「石油価格の暴落」そして「米国の中東政策の変化」でしょう。これらの事が同時に起きているのです。

オイルショックやリーマンショックの時と比べて今回の事態ははるかに複雑です。


(3)貯蔵できないというリスク ~海外依存・貯蔵不可能な資源~


「石油からの脱却」は日本にとってオイルショックが初めてではありません。戦争の苦い経験は日本を脱石油へと導きました。日本国土で採掘できない石油を東南アジアに求めたことがあの戦争の本質でもあります。なので、戦後、海外のエネルギー資源に頼らないエネルギーを確保することが日本にとって平和と安定をもたらす最低条件であったわけです。

当時いろいろな議論がありました。しかし、この解決策の一つとして原子力開発がクローズアップされたのでした。原子力で発電した電気はほぼ国産とみなされます。また、一度装荷した燃料は3年間燃えつづけるため、これはエネルギーを3年間原子炉の中で貯蔵していることと等価となります。

さて、いまコロナで起きていることをひとつひとつ丹念に読み解いてみると、どれも世界が、日本がこれまで経験してきたことが部分的かも知れませんが参考になる、ということに気が付きます。

まず、特定の国に依存することの危険性は従来から言われていたことです。例えば、国産資源の無い日本の発電事業が海外の天然ガスと石炭のみに頼りすぎている(発電燃料の約7割)ことは明確です。


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(出典:一般財団法人日本原子力文化財団『エネ百科』-原子力・エネルギー図面集)


また、マイナス162℃で輸送されてくるLNG(液化天然ガス)は長期間貯蔵することが出来ません(発電所での貯蔵期間は最大2週間程度)。使う時に使うだけ輸入するということになります。世界的な需要減となった場合、行き先がなくなったLNGをそう簡単に引き取ることは出来ません。なぜなら、どこの貯蔵施設も満杯だからです。大規模な貯蔵が出来ないことは明らかにLNG暴落の一因です。

次に、LNGの最大ユーザーである電気事業にはどんなリスクが生じるでしょうか。


(4)電気事業のリスク ~コロナと電気事業~


天然ガスを液化し、LNGを生産する設備には膨大な費用が掛かるため、バイヤーに対して長期契約を求めるのが一般的であると第1話で、お伝えしました。これにより長期にわたり一定額を払い続け、供給を受け入れ続けることになる電力会社は、今度はタンクが満杯となった場合、市場で転売するしかありません。

しかしながら、市場は価格が暴落しているわけですから転売する場合にも需要が無く、転売がうまくいかないだけでなく、売れたとしても相当な逆ザヤとなります。

日本の電力会社は原子力発電の代わりとしてLNG火力を推進しているため、どこもこのようなリスクを抱えています。また、徐々にリスクは具現化されるでしょう。逆に言えば原子力を停止したことのリスクがこのコロナによって顕在化したとみることができるのです。

通常であれば、消費して電力価格として回収できたはずのLNG燃料代が、皮肉にもLNGを無理して売りさばくための余計なコストとなり、電気料金に上乗せされる可能性があるわけです。

また、石炭については現在CO2排出削減の観点から日本の石炭利用は世界的な批判の目にさらされてもいます。また、これに乗じて国内では石炭火力発電への投資を停止する金融機関も出ています。すなわち、原子力発電が稼働しない限り結果的に日本はLNG一本で行く、ということを奇しくも世界に宣言しているに等しいと言わざるを得ません。

原子力が無く、石炭は批判され、日本はLNG一本で行くのだとすれば、それを長期割高で購入している日本にとってコロナリスクを回避する手立ては他にはなく、諸外国との価格交渉のカードすら失うこととなります。これはポストコロナの経済復興において大きな足かせになる可能性があると考えなければいけません。


つづく


株式会社 ユニバーサルエネルギー研究所 代表取締役社長 金田 武司 氏

工学博士。東京工業大学大学院エネルギー科学専攻博士課程修了。(株)三菱総合研究所勤務を経て、2004年(株)ユニバーサルエネルギー研究所を設立。2018年8月に新著『東京大停電』を出版。

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