福島第一事故情報
原子力全般
福島第一原子力発電所事故から2年の実態は
京都大学原子炉実験所教授 山名 元 氏 (やまな・はじむ)
1953年 京都市生まれ。工学博士。専門は原子核工学、再処理工学。東北大学大学院工学研究科博士課程修了後、動力炉・核燃料開発事業団(現・日本原子力研究開発機構)で再処理や先進リサイクルシステムの開発などに従事。同事業団主任研究員を経て、京都大学原子炉実験所助教授、2002年より現職。11年には、原子力委員会・東京電力㈱福島第一原子力発電所における中長期措置検討専門部会長を務めた。
── 事故から2年経過しましたが、現在、福島第一原子力発電所の現況は、どのようになっているのでしょうか。
山名 事故直後には原子炉の中にある損傷した燃料の熱が非常に高い状態が続いていました。2年経ち、原子炉停止直後から見ると現在では1000分の1、1万分の1などに熱出力が相当低くなっています。
ただし、水を注入して、その水が汚染水となって出てくるものを浄化しながら再度使用する「循環注水冷却」の方法で炉心を冷やしている状態は継続されています。しかし、事故の直後よりは段違いに熱も放射能レベルも問題ない状態になってきています。
原子炉では廃炉に向けた長期的な作業がすでにスタートしています。今はまず使用済燃料をなるべく早く取り出すための作業と原子炉の中の状態を調べる作業、そして格納容器から水が漏れているため、どこから水が漏れているか調べる作業を進めています。
ただ、原子炉建屋の中が汚染しており、人が近づけない状態にありますから、まず部屋の中の放射線量がどれくらいか調べる。あるいはそこを除染して人が入れるように線量を下げる作業も現在、同時並行で進めている状態です。
使用済燃料の取り出しに向けてがれきの撤去と除染を進めている
── 各号機の具体的状況は、いかがでしょうか。
山名 1号機は、建屋が破損していて、汚染物を外に出さないように取り外し可能なテントで覆って管理しています。
2号機は、水素爆発が起こっていないので、炉心や格納容器はかなりやられていますが、建屋自身は健全です。、特に格納容器の破損の状況調査等を進めています。
3号機は、かなりダメージが大きいうえ放射線量が高いため、まだ爆発した上部のがれきの撤去作業を続けている状態です。
4号機は事故当時、定期検査中で燃料はすべて炉心から出されて燃料プールに入れてあったのですが、3号機から移動していった水素で爆発してしまいました。そのため、4号機も建屋の上部が破損していますが、汚染の規模はかなり低いので、爆発した上部のがれきをほとんど撤去し終わった状態です。そして、使用済燃料を一番上のフロアから取り出すための準備作業が行われている状況まできています。
このように、徐々に修復の状態に持ち込みつつあるのですが、サイト内の線量を下げることを第一目的として、汚染物、がれきを撤去して、廃棄物としてまとめる作業を進めているため、敷地内の線量もかなり下がってきています。
さらに、事故当時は海への汚染水の漏洩が問題になりましたが、その海の汚染を広げないための様々な措置も行われています。海底に浮遊性のものが出ていかないように、土をかぶせたり(被覆土)、海水が外に出ていかないための壁(遮水壁)をつくる工事も準備段階にあります。
加えて、今、建屋の中を除染、遮蔽し、徐々に炉心の中がどうなっているかを調べる作業が少しずつ進んでいます。
── 廃炉に向けた工程は、どのように進んでいるのでしょうか。
山名 廃炉に関しては「中長期ロードマップ」が作られており、3つの時期に分けています。
まず第1期が冷温停止状態達成後の2年間、第2期が10年まで、そして第3期が30~40年までです。
第1期での目的は、使用済燃料の取り出しをその期間のうちに始める、原子炉の中の点検を進めることです。2011年12月に冷温停止状態達成ですから、今年の12月で2年経過し、第1期が終わります。
使用済燃料の取り出しは、4号機で2013年11月に始められる状態になってきていますが、原子炉の中の点検は、少し遅れぎみです。線量が非常に高いため、苦労しています。
その他、発電所敷地内の除染などは、継続してきており、破損した原子炉から外に放出されている放射能の量も激減しています。敷地境界で、自然界の放射線による影響よりと同程度の低いレベルのところまで放出放射能量は減ってきています。
また、作業する人たちの環境改善をする努力も続けられています。
(経済産業省 HP 「東京電力(株)福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ進捗状況(概要版)2013年3月28日版])
再臨界が起こる可能性は一般論としては非常に低い
── 再臨界の心配はないのでしょうか。
山名 再臨界は、核燃料物質と減速材である水が、ある最適の状態で集まって初めて核分裂が持続的に行われる状態に再び至ることですが、科学的な可能性としては全くゼロではありません。といいますのは、原子炉の中で燃料がどうなっているかがわかっていないからです。
推測すると、1号機はほとんどの燃料が溶けて下に落ちて固まっており、水で冷やしている状態です。2号機、3号機については、一部が圧力容器の中に残り、一部が下に抜け落ちている、と考えられていますが、その燃料の状態が、集まっているのか、分散しているのか、水がどういう状態であるのかといったことが全くわかっていません。
ただ、少なくとも今現在、臨界を起こしていないことは間違いないです。臨界になった場合、中性子の量や核分裂生成物のデータなどからすぐ分かりますが、全くそういう兆候がないからです。
核燃料と水が理想的な状態で配置されることで臨界になりますが、損傷した炉心において、そのような状況が再びできあがる可能性は一般論としては非常に低いと見られています。
── 4号機以外からの使用済燃料の取り出し計画はどこまで進んでいますか。
山名 破損した原子炉の使用済燃料がまだ原子炉建屋の中に全て置かれています。先日、ネズミによって電源が落ちて、使用済燃料プールの冷却が何時間か止まりましたが、大きな地震が再び起こるようなことがあるとまずいので、なるべく早く使用済燃料を取り出したい、と国も事業者も考えています。
そのためには、取り出した燃料をどこかに移すことになります。その移し先は、各号機の使用済燃料を共用で貯めておく大きな施設「共用プール」です。共用プールには、既にたくさん燃料が保管されています。そのため、その燃料を取り出して、水の中ではなく、乾式貯蔵キャスクという鋼鉄製の大きな専用容器に移す必要があります。キャスクに移して、共用プールにできたスペースに建屋から取り出した燃料を入れる計画で進めています。
ところが、燃料を取り出すための手段が今、1、3、4号機にはありません。水素爆発によって、燃料貯蔵プールから燃料を取り出すためのクレーンが壊れていますし、建屋も壊れています。しかも、爆発によってがれきなどがその使用済燃料プールの中に落ちたり、やぐらが倒れていたりする状態にあるのです。
ですから、1、3、4号機の屋上のがれきを撤去して、プールの上をきれいにして、燃料取り出しのためのクレーンに相当するものをつくる必要があります。
次に、使用済燃料を納めるためのキャスクを建屋に運んでプールの中に沈めて燃料を入れ、そのキャスクを取り出して共用プールに運ぶ、こうした手順を踏むのです。
今、一番作業が進んでいるのは4号機です。放射能汚染がほとんどないため、屋上のがれきの撤去がほぼ終わり、きれいになっています。建屋の横に頑強なやぐらをつくっていますが、これにクレーンの機能を持たせて、キャスクを入れて燃料を取り出して運び出します。11月までにやぐらを完成させて、すぐに取り出しを開始する予定です。
3号機は、爆発の規模も大きく、放射線量が高いため、がれき撤去にかなり苦労しています。しかし、がれきの撤去は3分の1くらい進んだようなイメージだと思います。
1号機は今、覆いがかけてあって手つかずですが、3号機や4号機の作業を進める中で対策を考えていく予定です。1号機は大きさも小さいので、3、4号機の経験を使えば何とかなると思います。
もう1つ大事なことは、使用済燃料プールには事故時に冷却のため海水も入れたということです。海水の中に一度浸けられた使用済燃料は塩素の成分などによって腐食したりする可能性があります。そのため、がれきをかぶったり、海水にさらされた燃料が共用プールの中で長期の保管に耐えるかどうか、別の試験施設で試験しています。
試験の結果、「ほとんど問題ない」という答えが出ています。海水に触れていてもそんなに問題なく、燃料はほとんど破損していないことがわかっていますので、そういう意味では安心ですね。
また、4号機には、使用していない新しい燃料がプールにありました。これは濃縮ウラン燃料で、放射能はほとんど出ないものです。それを2体、検査のために取り出しましたが、ほぼ損傷を受けておらず、腐食も起こってないことがわかっています。
使用済燃料の移動フロー図
井戸をいくつか掘り地下水バイパスで流入量を下げる
── 地下水の浸入により汚染水が増え続けている問題がありましたが、最近では汚染水の貯水槽からの漏洩問題が起きています。
山名 原子炉には冷却のため注水を続けています。熱の除去は順調で、中の水温が15~35℃で、室温くらいに落ちています。しかし、その水が格納容器から原子炉建屋の中に漏れ出て、タービン建屋まで出てくる状況は変わっていません。
そのため、その汚染水から特にセシウムや海水による塩分をできるだけ除去し、その水をまた原子炉に注入する作業を行なってきました。
しかし、セシウム以外の放射性核種がまだ残っています。そのため、去年から多核種除去設備(ALPS)という装置を新たに設置してきました。それが完成して、今、使用する前の検査状態にあります(3月末現在)。これが稼働しますと、トリチウム以外の核種をほとんど回収でき、かなり汚染水はきれいになります。しかし、トリチウムという放射性物質だけは取り除けません。トリチウムは、水と分離させることが極めて難しい核種で世界的にも除去技術が確立されていません。
それから、汚染水の量は循環させていても、増えていきます。それは、地下水面が原子炉建屋の底よりも上にあるためで、外から地下水が建物の中に流れ込んでいるからです。毎日、最大で400トンの地下水が流れ込み、汚染水の量が増えていっています。
汚染水は、簡単に海に放出することはできないため、汚染水用のタンクをどんどんつくり貯留し続けている状態です。しかし、いずれはタンクもいっぱいになりますので、大きな課題です。先般、汚染水が漏洩した貯水槽は、このタンク的な役割として作られたものでした。
では、地下水が入らないようにするためにどうするか。原子炉建屋は海側につくられており、地下水は傾斜により海に向かって流れ込んでいますので、建屋の海側の反対側の陸側に井戸をいくつか掘って、そこから地下水をくみ上げて海に放出する準備を進めています。そうすると、陸側からの汚染されてない地下水の流れを減らして、その建屋への流入を減らすことができます。この方法を「地下水バイパス」と呼んでいますが、その工事がもう相当できてきた状態です。
この方法がうまくいけば、滞留水の増加をある程度減らせるだろうと期待されています。
滞留水処理の全体概略図
── 溶けた燃料デブリ(破片、堆積物)の取り出しについてはどのような作業が進められていますか。
山名 燃料デブリは、中を見た人は誰もいないため定かではありません。理想的なのは格納容器の中にカメラを入れて観察することです。究極は、圧力容器の中にカメラを入れて観察するところまでもっていきたいのですが、観察するための建屋の除染で今、苦労しているような状況です。
その代わり、中の温度の状況などはできるだけ調べようと、配管を通して温度計を入れたり、2号機では格納容器の中の貫通孔からカメラと温度計を入れて、放射線量や温度の分布がどうなっているか調べることが始められています。
また、事故の解析をもっと精緻にしようと、事故が起こったときの原子炉内の液や水位、温度などのデータを入れることで、メルトダウンがどう起こったか評価し、その計算によって燃料がどこにいっているかなどがある程度推測できます。そうした作業を、同時並行でやっています。
アメリカのスリーマイルアイランド(TMI)原発事故の事例や模擬試験の情報を使うと、ある程度の推測はできますが、JAEA(日本原子力研究開発機構)などの試験施設を利用して、実際に燃料集合体の模擬物質を使って燃料を溶かして、同じような物質をつくって、それがどんな特性を持っているか調べる研究を進めているところです。
これは先ほどの第2期にあたり、冷温停止状態達成以降10年以内にそれらの結果がわかり、取り出しに着手できるようにするのが目標です。
そのためには、格納容器からの水漏れをとにかく止めることがスタートです。
もし漏水を止めることができれば、最終的に格納容器の中を水で満たすことができ、格納容器の蓋を開けて上から遠隔で水の中にある燃料デブリを取り出すことが可能になるのです。
TNIでは、燃料デブリはほとんど圧力容器の中に留まっていましたが、今回は圧力容器を抜けて下まで落ちているため、どうやって作業するか、技術開発をスタートした段階です。
専任の組織を置いて国の総力を挙げて取り組むべきだ
── さまざまな研究開発が必要ですね。
山名 私は原子力委員会の下に設置した中長期ロードマップの検討部会の座長をやりましたが、答申をまとめた際、私を含め、多くの皆さんがおっしゃった強い要請がありました。
それは、これからの廃炉に向けた作業は国を挙げての長期の作業であり、さまざまな技術を研究開発していかないと成功しない。電力やメーカー、技術者などが、総力を挙げて取り組むべきであり、そのためには政府ができるだけ責任をもった専任の組織を置いてやるべき、ということでした。私のその思いは今も変わっていません。
こうしたことが実り、この夏くらいには新しい組織を立ち上げるべく準備が進んでいる状況にあります。
(2013年3月26日)