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2022年1月に慶應義塾大学 加藤一誠教授のゼミの学生9名が柏崎刈羽原子力発電所を視察しました。 原子力発電所の視察後は長岡技術科学大学 大塚雄市准教授のコーディネートのもと、柏崎市で企業経営する石坂泰男さんと原子力発電についてディスカッションしました。その様子をご紹介します。
柏崎刈羽原子力発電所を視察した感想
福島第一原子力発電所事故のニュースを鮮明に覚えている。原子炉建屋爆発の映像やメルトダウンのことを記憶している。映像を見て原子炉建屋はコンパクトな施設なのかなと思っていたが、視察して原子炉建屋の大きさに驚いた。また、原子力発電所の安全対策への投資を惜しまず、福島での反省を踏まえてあらゆる事態を想定している点が印象的だった。その反面、自然災害に対するリスクについてはこれで本当に十分か不安を感じた。
日本は自然災害が多い国だが、原子力発電が大切だと理解できた。地震や津波に備えて安全のためにリスク分散をしていることが印象的だった。事故によって原子力発電所から出る放射性物質は目に見えないので、社会に受容されるのは難しいかもしれない。
初めて原子力発電所を視察した。空港の中を移動しているような感じで楽しめた。福島第一原子力発電所事故の教訓をもとに、安全対策をしっかりと実施していた。説明を受けた際に「安全対策に終わりはない」と聞いて感心した。柏崎刈羽原子力発電所はまだ再稼働していないが、経済性の面からも今後再稼働するべきだと感じた。
ディスカッション「原子力発電 どう考える?」
柏崎刈羽原子力発電所は、プラスとマイナスの面を考慮する必要があると思う。発電所で作られた電気は関東圏を中心に使われていて、関東圏にはメリットがあるが、発電所が立地しているのは新潟県で、事故のリスクがある。しかし、柏崎刈羽には雇用が創出しているというプラスもある。難しい問題だと思う。
誰かのためになっているが、自分に何も利益がなかったら、嫌だと思うかもしれない。双方できちんと話し合いをして、規則を作って、お互いに納得をしたなら、発電所などの大規模なインフラも実現できるのかなと思う。
発電所を作る場合は、少なくとも地域の了解を得る必要がある。地域の人がメリット・デメリットをしっかりと理解したうえで、議論することが大切だと思う。
社会のみんなにとってはプラスで、自分にはマイナス面があったとしても、納得できる説明があれば受け入れられるかもしれない。
石坂さんからのコメント
一番大切なことはコミュニケーションだと思う。メリットとデメリットという話があった。その両方をどれだけきちんと事前に説明しているかが重要だと思う。何の説明もなしにレントゲンを撮られて放射線を浴びるのは怖いこと。でも、病気を発見して治療するためと説明すれば納得できる。 柏崎駅から長岡駅まで11駅ある。そのうちの茨目駅と安田駅の間には、田尻という大きな町があるが、駅がない。この地域で駅を作るという話が出た時代、列車や駅は騒音を出す迷惑施設だと思われていた。 そして、結局、駅は作られず、今の人たちは「どうして田尻に駅がないんだろう」と思っている。 リスクコミュニケーションがもっとしっかりされていれば、違ったかもしれない。
石坂さんへの質問
Q.電力の生産地と消費地の関係についてどう思いますか。
A.世界でも有数の都市である東京の電気を柏崎で作っていることは子供のころからの誇りだった。
Q.原子力があることによる経済的な影響はどうでしょうか。
A.柏崎市への固定資産税は大きい。発電所の構内では現在5000人が働いている。人口が8万人を切ってしまった街で、5000人を抱える事業所はない。この雇用はとても大きい。
Q.原子力発電所の立地・再稼働を理由に引っ越してしまい、人口が減少する一因になることはありますか。
A.逆かなと思います。現在、発電所が稼働していないので、経済的マイナスの影響が大きい。人の流れが悪くなって、どんどん人口が減っている。
柏崎市は、平成の大合併で人口が10万人に届きそうになったが、現在は8万人を切っている。再稼働すれば全てがうまくいくわけではないが、本来あるべき姿には戻せる。
コーディネーター大塚准教授の総括
長岡技術科学大学 大塚雄市准教授 原子力発電の必要性や再稼働については、個人の中に賛成と反対の両方の意見があるのは当然。今回の議論で皆さんの中にも新しく生まれた意見があると思う。そして、意見の違いがあることは悪いことではない。むしろ、意見が一つの方向に振れてしまうことが、地元の方の懸念だと思う。原子力発電所に限らず、リスクを抱えている施設の運用については社会で話題になる。今回の意見交換会がエネルギー・原子力のことを考えるきっかけになったら嬉しいです。